2,summer

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2,summer

8月も半ばを過ぎた早朝、隼斗とその父親は家の近くの川の土手を走っていた。 川からの風は心地よく、日中の暑さが襲ってくる前の貴重な時間の恵みをこうして享受できることは、ちょっとした幸せだった。 しかし走り始めて間もない隼斗はすぐに音を上げて、歩きに変更した。 「ウォーキングじゃだめなの?」 「だめということはないが、体を鍛えるにはジョギングのほうが効果的だろ」 隼斗が通っている中学校が近くにあるので、放課後には野球部など体育会系の部員がこの土手を走っている光景が見られた。 「ファイトー!」と掛け声をかけながら足並みをそろえて走る姿には、若さが迸る躍動感が感じられた。 もし彼らがランニングではなくウォーキングをしていたらと想像すると、そこには気の抜けたような脱力感が生じて、何か滑稽だった。 「人間は走ることで脳が鍛えられて大きくなって、進化したんだ。走るのが健康にいいというのは、紛れもない事実だよ。走っている人間の方が長生きするというデータもあるんだ」 父親の言葉を聞いて、隼斗は自分を奮い立たせて再び走り出した。 「そうそう。競歩みたいに足を地面につけていないといけないというのは、かえって面倒だろ。地面から足を浮かせる自由さが、走る魅力だね」 地面を蹴って、一瞬体が宙に浮く。そのエネルギーの積み重ねが、体に精力を送り込む。 流れ出る汗は、体が元気をもらったことのサインだ。 しばらく走り続けている隼斗とその額の汗を見て、父親は言った。 「無理はしなくていいんだ。競走でも何でもない。ゆとりをもった有酸素運動なんだ。つらくなったらいつでも歩きに変えていい」 無理をしないで楽しく続けるのが、大前提だった。だから走るのは毎朝ではなく、週に3,4日ぐらいの可能なペースで行っていた。 川の土手を池のある公園まで往復30分。それがジョギングのコースだった。公園では小学生や地域の住民が、ラジオ体操や太極拳などを行っていた。小学6年だった隼斗も、夏休みにはラジオ体操に出来るだけ参加した。 「もうラジオ体操はやってないのか」 「やってないよ。夏休みに入った最初の10日間だけだよ」 「なんだ、短いな。昔は夏休み中、毎朝やってたぞ」 「えーっ、そんな……1日も欠かさず出る人なんているのかな」 その日の公園ではお年寄りがメインで太極拳をしていた。朝陽を浴びて一心に体を動かす彼らは、いかにも健康そうに見えた。 「太極拳も有酸素運動なの?」 「そうだよ」 「有酸素運動っていってもエアロビクスなんかは激しいけど、太極拳みたいにゆっくりしたのもあるんだね」 「そうだな。ゆっくりした運動だからって、効果が薄いわけじゃない。自分に合った運動をすれば、それが実になるんだ」
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