2,summer

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2人は色々なことを話しながら走ったり、あるいは黙って季節の風を感じながら走った。 時には歌を歌いながら走ることもあった。走ることにほぼ意識が集中しているので、歌といっても鼻歌程度で歌詞はいい加減だった。 「ビリー・ジーン、ナットマイガール」 と父親の歌う英語の歌詞を耳に留めて、隼斗は歩調を緩めて訊いた。 「それ、もしかしてマイケル・ジャクソン?」 「ああそうだよ。『Billie Jean』。マイケルがこの曲の中であの有名なムーンウォークを披露したんだ。知ってるだろ?」 「ムーンウォークは知ってる。奇妙なダンスでしょ?」 「そう。前に歩くように見せかけて、後ろに足を滑らせる。普通の人にはなかなかできない技だ」 隼斗には、マイケルの巧妙な動作が天才の技としか思えなかった。自分にとっては、このジョギングで実直に前に進むのが精一杯だった。 父親は「ビリー・ジーン、ナットマイガール」という箇所だけを何度もリピートした。 9月に入って夏休みが終わり、学校が始まったある日、父親は隼斗にRUN君の万歩計を手渡した。 「こういうのがあると、走るモチベーションが上がるだろ」 キャラクターのRUN君を見て、隼斗は率直な感想を述べた。 「何これ、鉄腕アトムのパクリ?」 「ちょっと似てるが、オリジナルキャラクターだ。進化していく過程とか励ましメッセージとか、芸が細かいんだ」 父親は自分が発明したかのように自慢げに言った。 「どこで買ったの?」 「いやそれは……、買ったんじゃなくてこういうのを開発している友人にもらったんだ。試作品で非売品だ」 非売品とはすごいなと、隼斗は感心した。 その時から、RUN君は隼斗の唯一無二のジョギングパートナーになった。
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