第 一 話

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第 一 話

 布団にくるまった黒髪ウルフカット少女、氷上冬夢(ひかみのえる)は家の傍の大学の鐘が十二時を知らせるのと同時に目が覚めた。 起き上がると寝癖を手ぐしでなんとなくとかしつつ、目を擦りスマホを開く。 青白いブルーライトの光で10月1日と表示されている。冬夢の誕生日だ。 何日間もカーテンを開けていなく、掃除もしていない部屋は薄暗かった。 「掃除するか……。」 一言呟き冬夢はカーテンを開けた。何もやる気が起きない、どんよりとした曇り空が広がっている。  冬夢はただでさえ外に行く気にもなれない。  冬夢は人の好き嫌いはあまりない方だった。あったとしても苦手程度だった。 人生で初めて"嫌い"になった人物が居た。  それは母親だった。  冬夢は母親が大好きだった。  変わったのは冬夢が中学二年生の春、4月20日の出来事がきっかけだった。 冬夢は、いつも通り「行ってきます!」と元気よく家を出た。母親も父親もにっこり微笑み「行ってらっしゃい。」と返してくれた。 そして冬夢は軽く頷き学校へと足を運ぶ。 坂の上で友達を待ち、坂を下って小学校への道を進む。くだらない会話が大好きだった。 冬夢にとってはいつもと変わらない日だった。 学校でも変わりなく過ごしていた。そう、正午までは。  正午、4時間目があと15分で終わるという時に正午を知らせる大学の鐘と同時に教室の扉が勢いよく開いた。クラスメイトの視線が一斉に扉へと向い、ハーフアップで若くて最近プロポーズされたのか左の薬指に指輪を通している担任の方向へ集まった。 「氷上さん!!!」 と急に冬夢の名前が呼ばれた。 クラスメイトの視線は先生から冬夢へと一瞬で変わった。 そして先生は冬夢へ駆け寄ると小声で 「帰る支度をして。なるべく急いで。」 と言った。冬夢は状況が理解できないまま帰る支度をした。 先生の後を追い、駆け足で教室を出て、昇降口まで先生と走った。 「落ち着いて聞いてね。」 先生が口を開く 「氷上さんのお父様が亡くなられたそうです。」 告げられたその瞬間、冬夢は走っていた足が硬直した。そして手に 制服のジャケットと涙がこばれ落ち世界の色が消えていった。 「今...なん……て?お父さんが……亡くなった……?」 先生は冬夢の手を引きながら玄関まで連れてってくれた。  祖母が居た。迎えに来たのだろう。冬夢は祖母を見たとき止まったと思った涙がまた溢れ出て来た。祖母も涙を堪えているように見えた。 すると祖母が冬夢を抱きしめ、耐えきれなくなった悲しみを声を上げて泣き捨てた。  そのまま学校からタクシーで病院まで行くと待合室に母の姿があった。泣いたのだろう、目が真っ赤に充血している。  そして冬夢を見つけると目を擦り、無理矢理微笑んで 「冬夢…大丈夫……?…………なわけ無いか……」 何故、自分の心配をしないで娘の心配をしたのだろうか。冬夢は疑問より怒りが湧いてきた。 「お母さんのほうが大丈夫じゃないでしょ?!なんで私のことを心配するの? お母さんは⋯お母さんは⋯永遠に愛を誓った相手が死んじゃったんだよ?!私の心配より自分の心配してよ!!!」 冬夢は混乱のあまり怒鳴ってしまった。だが母は、 「そうだよね…そうだよね…ごめんね…心が追いついてないんだ…ごめんね…何があってもお母さんは冬夢の味方だよ…ごめんね…」 と謝るばかりだった。そしてそれ以上何も言わなかった。  これが春の出来事だ。  父は34歳だった。死因は事故死だったらしい。あとから母が教えてくれた。 有名なデザイン企業の社長だった父はその日建築デザインを依頼されていた現場に足を運んだ際、足場のネジが緩んでいたことに気づかず、6階の高さから転落した。 救急車で運ばれたがその後死亡したらしい。  父が死んだことによって変わったことが何個もあった。  だがそんな中でも片親という理由だけでクラスメイトにいじめられたことが苦しかった。 トイレの水をかけられたり、上履きに画鋲を詰め込まれたり、机に落書きされたりと、散々だった。  そのことを母に相談すると「今忙しいから後にして」と言われ、学校に行きたくないと言ったら「ふざけないで」と言われた。友達にも母親にも捨てられた冬夢は限界だった。 朝、家を出てその後無断欠席をするようになった。  そんなことをしていると母は冬夢に呆れたのかわからないが家を出て、会社に籠もるようになった。 冬夢は母に裏切られ、育児放棄をされ、いじめられ「不幸」になった。  こんな私が生きていても⋯と思い死のうとしたことは何回もある。 でも恐怖心で自殺はできない。 恐怖心じゃなくて、死にたくないのかもしれない。 誰かに向かって「私を助けて」という合図を出したいのかもしれない。
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