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スーパーに着いた。買うものは、ぶりの粗と大根(大量に)と味噌汁用のネギ。みくは、
「私、大根十本も一度に買うの、初めてですう」
と言って笑った。
工場に帰って、ぶりを冷蔵庫に入れると、まず米を研ぐ。
「みくちゃん、とぎ汁はこっちに取って置くんだ」
と言って、僕は大鍋にとぎ汁を入れた。大根を洗って切り、皮を厚めに剥いてゆく。切った大根のヘリを二人並んで取っていった。
「なんか、楽しいですね、こういうの」
「うん。夢中になるよね」
大根を切り終わると、米のとぎ汁を入れた鍋のなかに入れた。ガスコンロの火を点ける。
「しばらくこのまま、コトコトと。とぎ汁で下茹ですると大根臭さが抜けて上品な味になるんだ。仕事に戻ろう」
「なるほど。このひと手間なんですね」
みくは感心したように言った。
「私、お料理したことほとんどないんです。恥ずかしいんですけど……。だから、高橋さんと組めてラッキーです」
ラッキーなのはこっちのほうだよ……。みくが純粋で無邪気な笑顔を見せたから、僕は後ろめたい気持ちになった。
大根がほどよく柔らかくなったところに仕事場から戻り、みくと二人、煮汁を捨ててぶりを入れ、酒、みりん、醤油を入れていった。それをまた、ことこと煮ている間に、米を炊いて味噌汁を作る。
「高橋さんって、なんでもできるんですね」
みくの言葉に、
「なんでもはできないよ……」
と答える。
「じゃ、できないこと言ってみてください!」
できないこと、できないこと、できないこと……。君に好きだと伝えることかな……。
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