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初姫の中にいる温羅が、その瞬間を見逃さず、素早く牛の形のモヤを切り裂こうと腕を伸ばした。
その瞬間、初姫の右手の爪は、人間のものとは思えないほど鋭く尖った形に、その姿を変える。
「うぐぅううぉぉぉおおおおおおおおお」
今までに聞いたことのない、不気味な咆哮と共に、切り裂かれた牛の形のモヤは、跡形もなく消えた。
辺りが一瞬だけ、静寂の中に包まれたと思ったら、一転、喧騒の世界へと引き戻される。
牛の妖に取り憑かれていた男が、ぐったりと項垂れていた。
「おい、押さえろ」
様子を見ていた通行人の男が、数人で犯人の男を押さえ付ける。
「おい、誰か警察に電話を!」
「女性と老人が刺されてる。救急車!」
あっちこっちで叫び声が聞えた。
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