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大学を卒業して久々に集まった友人同士の飲み会で、ちゃっかり彼の隣の席を確保した私はあろうことか彼にそんな話題を提供した。彼は「うーん。それは興味深い話題だね」と言い、「そもそも夏はどうやって生計を立てているんだろう」と一緒になって考えてくれた。
私はますます彼を好きになり、その気持ちを誤魔化す為に彼の隣で甘いお酒をしこたま飲んだ。酔いつぶれた私が目を覚ましたのは、彼の部屋のベッドの上だった。
「何もしてないよ! 信じて!」と必死に無実を主張する彼に、私は二日酔いで揺れる頭を押さえながら「良かったのに」と告げた。声が小さかったのか、意味を察せなかったのか「え?」と聞き返す彼に、私はこれまでで一番勇気を振り絞って「北見くんなら、私良かったのに」と言った。
その時の私は、今の私くらい緊張していた。髪の毛もぼさぼさで、寝起きのむくみきった顔で、勢いに任せて告白した自分の考えの至らなさと、よしよく言ったという長年の想いを口にした自分の勇気を讃える自分が頭の中で激しく討論していて、もう何も言えなかった。判決を待つ被告の気持ちで彼の次の言葉を待った。
「じゃあ、これからしてもいい?」
彼の顔が近付いたとき、私はまだ実感が湧いていなくて、なにもこんな酒臭い初めてなんて、とまたどうでもいいことが頭を支配していたことは、彼には内緒にしている。
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