坂道1

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坂道1

 冬の、凍てついた光が降り注いでいる。その音が自分のコートに当たる感触に、沈み込んだ心が少しだけ慰められた。  寄宿学校の長期休暇の度、家に帰るのは義務だった。義務でしかない。初等科五年生になってユーリのその想いはますます強まっていた。  家の玄関へ続く長い上り坂を歩きながら、ユーリは冬の日差しについての曲を考えようとした。家に帰る重苦しさをそれで誤魔化そうとしたのだ。が、妖精が遊ぶようなキラキラした曲調にしようと思ったのに、頭の中を流れる曲は冬の嵐のような苦痛に満ちたものになり、結局ユーリは浮かんだメロディを放り出した。  と、同時に玄関に着く。黒光りする高級な樫の木の扉。十歳の子供らしくないため息を一つ()いて、ユーリは扉を開けた。誰もいない家。 「ただいま」
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