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あれは、今から十年前、高校3年生の時のこと。
私、児玉 奈南は、同級生の神戸 光と付き合っていた。
けれど、4月8日の始業式の日、クラス替えで私たちは別々のクラスになってしまった。
午前中で授業を終えたその放課後、帰り支度を終えた光が、私の教室まで迎えにくる。
私たちは、何を約束したわけでもないけれど、当然のように連れ立って下校する。
「お昼どうする?」
自転車置き場まで歩きながら、光が尋ねる。
「いつものとこでいいんじゃない? そのまま一緒に勉強できるし」
明日のテストを思うと、午前中で学校が終わっても、単純に遊びには行けない。
「そうだな。そうしようか」
私たちは、学校からほど近いところにあるファストフード店へと向かう。
一緒にハンバーガーを食べ、そのままそこで教科書やノートを広げて、勉強を始める。
2人とも同じ文系だけど、英語が得意な光と国語が得意な私。
2人で教え合いながら、夕方までそこで過ごした。
けれど、時刻が18時を回ると、空いていた昼下がりの店内とは打って変わって、夕飯を求める客で混み合ってくる。
私たちは、教科書を片付けて、長居したファストフード店を後にした。
自転車をゆっくりと漕ぎながら思うのは明日からのこと。
テストの心配じゃない。
光がいない教室が寂しくて、耐えられないんじゃないか……って思ってしまう。
光はいつも私の家まで送ってくれる。
今日も私の家に向かいながらも、家が近づくのが嫌で、つい自転車を漕ぐ足が遅くなってしまう。
「ねぇ、光」
私は、並走しながら光に声をかける。
「もう少しだけ、一緒にいたい」
すると、光は小さくうなずいた。
「ああ、俺も」
私たちは、うちからほど近い神社の前に自転車を止めた。
神社といっても、参拝者なんて、誰もいない寂れた神社。
苔むした石造りの鳥居の奥に長い石段がある。
「行こ」
そう言って、光は私の手を取る。
私たちは、手を繋いで、その長い石段を上り始めた。
何があるわけでもない小さな神社なのに、こんなに長い石段を上らなきゃいけないから、きっと誰も参拝に訪れないのよ。
私は息を切らして石段を上りながら、そんな事を考えていた。
でも、これを上ったら、光ともう少し一緒に過ごせる。
私は、それだけのために、光の手をキュッと握って石段を上る。
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