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「はぁ、着いたぁ!」
上りきった私たちは顔を見合わせて微笑んだ。
境内を見回すと、そこは大きな古木が何本も生える鬱蒼とした場所。
薄暗い夕暮れ時だったけど、木の影になり、真っ暗なここは、一気に夜更けまで時間が流れた感じがする。
あるのは、薄ぼんやりと点る街灯が1本のみ。
その時、私たちの間に、はらはらと薄桃色の花びらが舞い落ちてきた。
見ると、境内の左奥に、これもいかにも古そうな枝垂れ桜の木が1本立っている。
「綺麗〜!」
私は、思わず、その木に歩み寄る。
ソメイヨシノとは違う趣きがある。
「『いとおかし』ってこういうことを言うのかな?」
さっきまでやってた古文が私の頭をよぎる。
「そうだな。暗がりだから、淡い色の花びらが浮きがってるみたいに見えて、余計に綺麗に感じるのかな」
光も私の手を握ったまま、上を見上げている。
「ずっと、ここに、こうしていられたらいいのに」
私は思わず呟いた。
明日なんて来なければいい。
光とここにこうしてずっと一緒にいたい。
「奈南……」
光は繋いだ手を解くと、そっと私を抱き寄せた。
光の腕の中は、ドキドキとキュンキュンが止まらないけど、でも、とても心地よくて、ずっとこうしていてほしいと思ってしまう。
私は、光のジャケットの背中にそっと触れてみた。
永遠に光と一緒にいられたらいいのに。
光は、私を抱きしめていた腕を緩めると、今度は、そっと私の頬に手を触れた。
「奈南、好きだよ」
暗がりでもはっきりと分かる、その真剣な眼差しに胸が締め付けられる。
「私も。私も、光が好き」
私がそう告げると、光は優しく微笑んだ。
「俺、いつか、大人になってちゃんと奈南を養えるようになったら、迎えに行くから。だから、何年後になるか分からないけど、奈南、俺と結婚して」
これって、プロポーズ?
嬉しくて言葉が見つからない。
「うん」
私はようやくそれだけを絞り出して答えた。
そして、頬に添えられていた手がそのまま滑るようにうなじへと回され、光の顔が近づいてくる。
あ……
気づいた時には、唇が重なっていて、私は慌てて目を閉じた。
ファーストキスだ……
もうドキドキとキュンキュンで胸が壊れそう。
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