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その時、ゴォォッという音と共に、突然、風が吹き上がり、私たちの体と共に木々の枝葉を大きく揺らした。
なに!?
驚いて唇を離した私たちは、揺れる枝垂れ桜の枝を見つめる。
と、同時に、風で舞い上がった桜の花びらが吹雪のように舞い落ちて来た。
「綺麗……」
そう呟いた私の耳に、不思議な声が届いた。
「十年後、再びここへ」
えっ?
光の声じゃない。
私は誰かいるのかとキョロキョロするけれど、誰もいない。
ふと見ると、光も同じようにキョロキョロと辺りを見回している。
「ねぇ、光、今、なんか聞こえた?」
私は光に尋ねる。
すると、光は首を傾げながら、答える。
「なんか、『十年後、再びここへ』って誰かに言われた気がするんだけど」
じゃあ、やっぱり私の空耳じゃないのね!
「私も聞こえたの。でも、どこにも誰もいないよね?」
どこをどう探しても、この境内には誰もいない。
境内の外は切り立った崖のようになってるから、誰もいるはずないし。
私たちは、2人で首をかしげる。
「ねぇ、もしかしたら、神様の声じゃない?」
私はふと思いついたことを声に出して行ってみる。
「神様?」
光は、右手にあるお社に目を向ける。
「神様が、私たちはこのままずっと仲良く付き合って、結婚して、十年後には子供もいるから、それで、その報告に来いって言ってるのよ」
私は願望を多分に含んだ妄想を語る。
すると、光はくくくっと笑いながら、私の頭をぽんぽんと軽く撫でる。
「ん、そうだな。きっと、そうなってるよ」
光、大好き。
大好きの気持ちが募りすぎた私は、そのままぎゅっと光の胸に抱きついた。
「うん、十年後、また一緒にここへ来ようね。家族みんなで。でね、子供たちに話してあげるの。ママはここでパパからプロポーズされたのよって」
光の胸でそう語る私の肩にそっと手を置いた光は、そのまま私を少し遠ざける。
「かわいい、奈南。愛してる」
私の耳元でそう囁いたかと思うと、わずかに屈んだ光の顔が私の目の前に近づいて来た。
あ……
次に起こることを理解した私は、今度は、目を閉じて彼を待つ。
次の瞬間、光のあたたかな温もりが、私の唇にそっと触れた。
2回目……
私の胸は、光への大好きがあふれて、ドキドキとキュンキュンに押しつぶされそうだった。
この時、私たちは幸せの絶頂にいた。
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