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 ぼっちゃんの10才のお誕生日の1週間前。 「ぼっちゃん。明日1日、わたしがいなくても大丈夫ですか?」 「なんで? どこ行くの?」 「ロボット工場です。ロボットのボディは、10年毎に新しくしなければなりません。このボディも、あちこち不具合が出ています」 「イヤだよ! ロボットと別れるなんて、イヤ!」 「心配いりませんよ、ぼっちゃん。わたしの記憶媒体は新しいボディに移しますので、ぼっちゃんのロボットであることに変わりありません」 「イヤ! ぼくはロボットがいいの! そのドラム缶みたいな体も、タイヤの足も、アームの長い腕も、2本しかない指も、好きなの! 今のロボットが好きなの!」 「分かりました、ぼっちゃん」    翌々日。新しいボディになってぼっちゃんのところに帰りました。 「ロボット!」 「ただいま、ぼっちゃん」 「おかえり、ぼくのロボット!」  ぼっちゃんは嬉しそうに、わたしのずんどうボディに抱きつきます。  この10年で、ロボットの見た目はかなり変わりました。より人間に近い姿形のロボットがほとんどです。ですがわたしは、ぼっちゃんが好きだと言ってくださった古い形のままにしてもらいました。 「ロボット……」 「なんでしょう? ぼっちゃん」 「ロボットは、ぼくのロボット?」  ぼっちゃんは、不思議そうな顔をしてわたしを見上げます。 「もちろんです」 「じゃあ……なんで、へこみがなくなってるの?」  ぼっちゃんは、わたしのずんどうボディの脇を撫でながら聞きました。 「ここもここも、傷が全部なくなってる。色も、少しきれいになってる」 「ロボットは、復活したのです」 「復活?」 「はい。ロボットは新しいボディに復活したのです」  そうお伝えすると、ぼっちゃんは少し寂しそうな顔をして「じゃあ、ロボット2号だね」と言いました。  わたしは、全てを覚えています。  初めて自力で寝返りを打てた日のことも、壁から手を離して歩いた日のことも、手を繋ぐのを嫌がられた日のことも、癇癪を起こしてわたしに子ども用のイスを投げ付けた日のことも、一緒に自転車の練習をした日のことも、ちゃんばらごっこをした日のことも、鉄棒の練習に付き合った日のことも、腕のアームを目一杯伸ばし、ぼっちゃんを抱えて病院まで走った日のことも。  ボディが新しくなって傷も凹みも汚れも全てなくなってしまっても、全て覚えています。  それでもわたしは、以前のロボットと違うのでしょうか?
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