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 その頃マンションのエントランスでは、外に出られない住人たちが寄り集まって玄関ドアを開けようと力技を使ったり、ボタンを探したりと大騒ぎになっていた。ある者は管理人室に入ってあちこちボタンかスイッチを探した。が、何をいじってもドアは開かない。  他の住人たちはスマホを使って外の誰か、もしくは管理会社に連絡の電話をするが、何故か誰のスマホも通信が出来なかった。 「電話、誰か繋がりますか?」  ひとりがまわりに問いかけたが、みな首を横に振るだけだ。 「ラインもツイッターも駄目です」 「でもテレビは映ってますわ。ほら」  と管理人室から出てきた男が、部屋の中にあるテレビを指差した。  覗き込んだ女性が見たのは、大通りの事故現場の映像であった。  マンションの外では警察や救急車、それにレッカー車両が敷地の内外に集まっていた。  そんな大騒動の中に、テレビ局のスタッフがふたり、小走りにやってきた。ひとりはビデオカメラを肩に乗せて、ひとりは携帯電話を握りしめていたが、マンションの外観が見えてくると、その異様さにふたりは足を止めた。 「なんだあのマンション。窓がないじゃん」 「窓もベランダもない。まるでバカでかい墓石じゃないですか」  ふたりは早足で移動を再開した。 「なんだ?車庫がみんな潰れてるのか?」 「カメラ!カメラ!」 「撮ってます、あれ?正面のドアも見えませんが?」  玄関ドアがあったと思われる場所には、朝方マンションを出た会社員や子どもたちが家に戻れずに途方に暮れていた。警察官も多数出動しているものの、彼らのまわりにはほんの数人が何をしていいかわからないのだろう、右往左往しているだけで、多くは駐車場の壊れたクルマの処理にまわっている。  テレビ局の記者は野次馬の老人に顔を向けた。 「地面陥没でもあったんですか?」 「うーん。私の家はすぐ近くなんですがね、ドーンという音はしました。そやけどそれは、あそこの車庫が壊れた音やと思うんです。それより不思議なんは、あの建物ですわな」 「窓やら入口が見当たりませんが」 「入口はほれ、あそこに住人さんが集まってますやろ、あそこに自動ドアがあるはずなんやが・・・」
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