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「ええ。さっき店にいた者です」
「あのう、酔ってて覚えておらんのやが、あんたと何か話しましたかね」
「いえ。荒井さんはずっとお独りで、たまに女将とお話していましたが、私には一度も話しかけることはありませんでした」
「それなら何用で?」
「私ね、他人の心が分かるっていうか、読めたんですよ。荒井さんの気持ち」
「やめてくれ。あんたみたいな若モンに年寄りの気持ちが分かるわけないやろ」
誠治はそう言って、男に背を向けた。
「私、こう見えても荒井さんよりずっと歳上ですから」
「そんなことないやろ」誠治はもう一度振り返って、男の顔を見た。にやりと笑ったその顔は皺だらけの老人のそれだった。
(お、鬼?!)
誠治は腰を抜かしてその場に崩れた。
「私はその祠に住んでる狐です」
「き、狐?で、でも」
「人の名前もあります。野干と言います。でも人間は私のことを別の名で呼んでいます。抱尼天と」
「だきにてん?お稲荷さま?それとも神さま?」
「私は人から呼ばれてるとおり、人間の女子を抱くのが好きな天狗なのです」
「てんぐ、さま?」
男の姿が黒いモヤに包まれた。するとモヤの中の人影が大きくなっていった。
「聞け。さっきの店でお前のことを知った。運に見放され、七十年のあいだ、いいことがひとつもなかった可哀想な老人よ。お前に力を授けよう。天狗の力を好きに使うがよい。恨みを晴らすのもよし。好きな女子にお前の狗茎を突き入れるもよし」
(わしは酔ってるに違いない。くけいって何だよ。男が女に突き入れるのは珍棒やろうが)
と思っていると、身体がじんじんと痺れ始めた。首が、腕が、尻が、脚が痺れて身体から離れていく感覚に囚われた。
(やめてくれ・・・)
誠治は大地に転がり、悶え苦しんだ。
「暴れるのだ。どうせお前が生きていられるのはあと僅か。何を遠慮することがあろう。何を我慢することがあるのだ」
誠治は苦しみの中で、男の声をはっきりと聞いた。
(本当にそうだ。どうせあとしばらくで死んでいく身ではないか。わしは何を遠慮していたのだ。何故あいつらに我慢していたのだ)
やがてすうっと痛みが去っていった。誠治は身を起こして男の姿を探したが、どこにも見当たらない。それより身体の軽いのに驚かされた。彼はすっくと立ち上がった。膝にも腰にもなんの痛みも感じない。
それどころか力が漲っている感じだ。ふと気づけば股ぐらのイチモツが怒張して痛いほどだ。誠治は半ば怖れを抱きながらパンツとズボンをずり下げた。するとボヨン!カチカチのイチモツが飛び出てきた。これまで見たこともないほどの大きさと硬さを持っていた。赤く火照った亀頭は天に向かってどこかに狙いを定めるべくゆらゆら揺れている。
(ふうん。なるほど、これが狗茎というやつか。これは早急に誰かの股ぐらに押し込んで、溜まったモノを発射しないとな。待っちょれ、女将。今から戻る)
彼はもと来た道を引き返し始めた。
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