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 冬のとてもとても寒い日の夜、()()()()()白い天使は辺り真っ白な世界を進んでいた。今はただ真っ白な絨毯の世界だが、夏の時は誰もが知る“花”が隙間無く埋める様に咲いて、それをかき分けて進むのに懸命になるだろう。しかし今は真っ白な絨毯に足跡を付けながら、人を捜す事に懸命になっていた。  この近くには湖がある様で、湖と云っても地平線の向こう側も続いてそうで果ては見えない。海の様にとてもとても広そうな湖だ。 「……」  冬の季節になったらこの湖で、あの“彼女”はどう過ごしているのだろう?  天使にとって彼女は、初めは気に留める様な存在では無かった。真夏の暑い日差しが強く眩しかった日に出会い、それから偶に様子を見に来るだけのつもりが彼女の方から話し掛けられた。無視しても此処に来れば、彼女はずっと向日葵の様な明るい笑顔を絶やさなかった。  今になって思えば、きっとその笑顔の理由が気になったからかもしれない。  何で態々、冬のとてもとても寒い日の夜に来てしまったのか、天使は今でも疑問に思っている。“彼女”の事が心配で来たという答えが照れ臭いからか、彼女の姿を探すと同時に此処へ来た他の理由を、言い訳を探そうとしていた。  水際まで近づくと湖は端から端まで凍っている事に気付く。ゆっくりと足を付けてみてもヒビが何一つ入る事は無かった。  天使は()()()()()天使だから“翼”はある。翼を発現させて鳥の様に飛んでいく事が出来る。湖の上に浮かんでいる向日葵の元まで行っても良かったのだが、ヒビが何一つ入らなかった様子が気になって、取り敢えずそのまま氷の湖の上を人間の様に歩いて行く事にした。  手が冷たい人は心が温かいと、人間の間ではよくそう言われているらしい。あの時に触れた“彼女”の手は天使にとって冷たく感じて、向日葵を確り見守っている事から正にその通りなんだろうなと思い返していた。
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