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 あの()は未だ聞こえていた。  無視しながら懸命に何か落ちてないか辺りを見回してみる。だけど硝子の靴以外に何か落ちている様子は無い。  ……だけ、こっちに返してよ。  確かな事は、しつこいくらいあの()が彼女に聞こえている。  その他に何も無いのなら、使えそうなモノを無暗に探したところで見つかる事は無いだろう。なのでダメ元でやってみる価値はあるかもしれない。誰なのかは分からないけど、きっと()が求めているのは間違いなく── 「お探しのものはコレじゃなーい?」  天使は軽い口調で()のする方へ、片方だけの硝子の靴を軽く放り投げてみた。  これは仕方の無い事だ。姿が見えないのであれば、ただ声のする方へ……しかし放り投げるのは良くなかっただろう。だから天使らしくないとか云われるんだろうなと、彼女は自分の事ながら呆れていた。  ありがとう、ありがとう。  ()は木霊する様にそう返して来た。それから何か小さなものが天使の足元に飛んで来た。 「……お。ラッキー! 良いものがあるな」  ボロボロではあるがライターだ。それを拾いあげると早速、火が点くかどうか確かめてみる。  点火口にある小さな回転ドラムを回してカチッと鳴らせば、直ぐに小さな火が点いた。小さな火なのに、天使の周りを明るく照らした。 「しかし、現代の人間が使う文明の利器に頼る事になるとは……」  ライターの灯りを頼りに今まで付けて来た足跡を辿って、一際大きい氷の塊があった所へ小走りで戻って行った。 * * *  大きい氷の塊の前でライターの灯りを差し出す、天使の瞳には黒いセーラー服の少女の姿が映る。  ──“彼女”だ。  周りにある向日葵も纏めて氷漬けにされている様で、意識の有無は氷を溶かしてあげなければ分からない。しかし天使は文明の利器に縋って火を熾しているので、大きな炎を熾すのはそんな簡単な事では無い。 「ライターじゃ、どうにもならないね。どうしたものか……」
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