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このボロボロのライターだけで彼女を助け出すのは当然難しい。それならばライターを見つけた時の様に、周りを隈なく探せば何か見つかる筈だ。
早速、天使は辺りを見回してみるも、
「……くそっ」
何も見つけ出せそうにない。
彼女はライターの持ち手部分をふと見つめる。
「……液の方は未だ大丈夫そうかな」
簡単に火が点くライターも、燃料が無くなれば点かなくなってしまう。しかし今はほんとにずっと点けていなければ周りは全く見えない。
天使は深い溜め息をついた。
「……ライターは小さな火がこんなにも簡単に点く癖に」
私は大きな火はおろか小さな火すら熾せなくて、何て無力なんだろう。
そもそも何で炎魔法が使えないんだっけ。
いや、それよりも彼女だ。彼女が大切だ。
大切な人だからこそ、今はただ彼女の氷を溶かしたいという気持ちなら負けてない筈なのに。
気持ちだけ負けてしまったら、きっと彼女を助け出す事は出来ない。そう、欲しいものが何でも簡単に手に入る訳じゃない。
だけど、どうすればいい? 考えなくては。
天使は真剣な表情で、ライターの小さな灯りを見つめる。
ライターの様に火を熾せたら。
彼女の氷を溶かせる火を熾せたら。
彼女を傷付けない様に、氷を溶かせる火を熾せたら。
ライターの火を消して一度収めると、駄目元ながら詠唱を始めて利き手に念じてみる。
「……え?」
揺らめく小さな火が、天使の手の平で現れる。
小さな火なのに、ライターの様に天使の周りを明るくした。
「何で……や、そうか」
もしかしたら。過ぎた事だけど、危ないから忘れようとしていたのかもしれない。
ある時の天使は“彼女”の様に助けたい誰かが居て、傷付けてしまったらどうしようと恐れて、それで暫く使うのを避けていたのだった。火が必要な場面なんて避けようともして、全く遭遇しなくなったから、火がどんなものだったのか忘れていた様だ。
これがきっと炎魔法が使えなかった理由……
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