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エリカの両親はとある公園に来ていた。そこには一人の女性がいる。その女性を二人は忌々しそうに睨むと、女性は微笑みながら小さく会釈した。
「やっと見つけた。お前だな、十年近くこんなイカレた事をしたのは」
「ええまあ」
「一体どういうつもりなの!? ふざけないで!」
二人から責められても女性はどこ吹く風という感じで気にした様子もない。それがますます二人の怒りを煽る。
「ふざけていませんよ。あれはエリカに贈ったものですから」
「はあ!?」
「共に過ごすはずだった、お正月から節句から誕生日から何から何まで。何歳かなんて関係ない、いつか迎えたはずの大切な行事を祝っていただけです。貴方たちには関係ないのでお気になさらず」
その言葉に怪訝そうな顔をしていた二人だったが、父親がはっとした様子で言った。
「まさか、恵里佳の腎臓提供者の親か?」
エリカは五歳の時腎移植を受けている。その提供者は脳死状態となった少女の腎臓だ。ドナーと臓器提供された側は連絡を取り合うことも、個人情報を開示されることもない。彼女がエリカの事を知るには相当苦労したはずだが、贈り物は移植手術の年から始まっていた。凄まじい執念だ。
「アンタの娘がどうして脳死になったのか知らないが、はっきり言って迷惑だ、気持ち悪い! ウチの恵里佳に死んだ子供を重ねるのはやめろ!」
厳しい口調で言えば、女性は肩を震わせる。きつく言いすぎて悲しんでいるのかと思ったが、女性の表情を見た二人は青ざめた。
笑っているのだ。その顔は不気味なほどに綺麗だった。
「知らない? 何であの子が脳死になったのか知らない? ふふ、あっはは! おかしい! 知らないはずないじゃない! うちの子の臓器が一番適してるってわかって殺したのはアンタたちなんだから!」
それまで穏やかな顔だった女性が狂気に満ちた顔になる。一瞬怯んだが、エリカの母親が負けじと言い返した。
「言いがかりはやめなさい! これ以上は警察に」
「言えばいいじゃない警察に、何で言わないの!? 長年こんな嫌がらせされてるのに! ボロが出て捜査されたら困るからよね! 医者に高い金払って、肺炎で入院してた私の娘を殺させたなんて!」
言いながら鞄から紙の束を取り出し地面にたたきつけた。そこには自分たちが行った事の証拠が記されていた。医者に支払った金の振り込み明細、その取引の様子、不自然な容体急変からの脳死、早すぎる脳死判断、そして脅迫のような臓器提供の催促。すべてデータや証拠品として残っているものだ。
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