365日おめでとう

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「コピーだからあげますよ、それ。本物は信頼できる弁護士に預かってもらってますので。イケナイことをしたお医者様は、いろいろな目にあってもらったらやっとしゃべってくれました。その録画も録音もありますから」  にっこり笑って言えば、両親は青ざめて震えだす。その様子を面白そうに見ていた女性は、明るい口調で言った。 「本当は復讐するつもりだった。幸せの絶頂の時に刑事告訴をするとか、ネットや雑誌に晒すとか、いっそエリカちゃんを誘拐してどうにかしてやろうかな、とかいろいろ考えてたんだけどやめたわ」  穏やかに言いながら、振り返り手招きをした。すると木の陰から出てきたのはエリカだ。 「恵里佳!? どうしてここに……まさか、アンタが!」  掴みかかりそうな勢いの恵里佳の母に、女性はハッと鼻で笑う。 「今の話聞かせておいてよく被害者面できるわね? あと、別に私が誘拐したわけじゃない。エリカは自分の意志でここに来たのよ」 「な……!」 「やめてよ」  恵里佳の母が何かを言おうとしたのを遮ったのは、他でもないエリカだった。その顔は人形のように無表情だ。そうだ、エリカは今の話を聞いている。わざわざ女が説明口調だったのも恵里佳に聞かせるためだ。 「違うのよ恵里佳、コイツの言う事信じないで! 早くこっちにきなさい!」  手を取ろうとしたがエリカはパシンと手を叩いた。信じられないものを見る目で呆然と見つめる恵里佳の母に、エリカは冷たく言い放つ。 「間違ってないじゃない。アンタたちが私を殺したんだから」 「え、なに? 何言って……どうしちゃったの恵里佳!」 「気安く呼ばないでよオバサン。私の名前は恵里佳じゃない、エリカだよ」  恵里佳が恵里佳じゃない、と言う様子に両親は混乱する。エリカは女性の手を取るとクイっと引っ張った。 「もういいじゃん、帰ろうお母さん」 「そうね」 「恵里佳!」 「うるさいな。私のお母さんは一人だけだよ。お前じゃない。人殺し」 「復讐するのはやめたの。こうして、エリカがまた戻ってきてくれたんだからね。去年エリカから連絡もらった時は本当に驚いた。でも、エリカと私しか知らないはずの“病気が治ったら誕生日に観覧車のてっぺんでお祝いしようね”って約束を言い当ててやっとわかった、エリカは死んでなんかいない、生きてくれていたんだって」  言いながら、死亡診断書のコピーを投げつける。女性の娘の書類と思われる、そこに書かれていた名前は「英梨花(えりか)」。 「さ、帰りましょうか英梨花。お父さんがケーキ作って待ってる。今日もここに来るって言ってたんだけどお母さんだけでなんとかなるからケーキ作って待っててって言ったら、すっごいケーキ作るって張り切ってた。パティシエで去年フランスのコンクールで優勝したからすっごく美味しいよ!」 「本当? 嬉しい! お母さん、早く帰ろう!」
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