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なぜかシェフと奥様は、池上さんとルカを交互に見ては、ご夫妻でとても嬉しそう。
「お飲物、お持ちいたしますね。ルカさんはワインは大丈夫ですよね」
「は、はい。好きです」
「池上は――」
「だめ。俺、車だろ」
わかりきったことだけれど、シェフの顔が残念そうに崩れる。
「そっか」
素っ気ない池上さんを見て、シェフもなにも話しかけずに行ってしまう。
料理が運ばれるまで、二人きりになる。
雪のクリスマスイブ。
突然のお誘い。ずっと昔に憧れていた大人の先輩から。
雪の町の、真っ白な平原にある可愛いレストラン。人がいなくて貸し切り。
こんなに素敵な状態なのに。
ルカは困っている。どうしてこうなったのかと。
元々、仕事以外に会話ができない人。
だからルカは諦めた。
いまだって連れてきてくれたのは彼なのにぜんぜんしゃべってくれない。
この人ってこういう人――と、ルカも静かに黙って、彼の横顔を確かめるだけ。
ずっと前に諦めた先輩だけれど、いまだってふとした瞬間にドキドキする。
年上だし、真面目すぎて、いつも怖い顔をしていて、ひとこと多い。
そんなお兄さんだけど、仕事をしている彼の目が好き。横顔が好きで。社会人になったばかりの頃、ぱりっしたワイシャツに、いまどきのネクタイをしてる大人の池上さんを見る度にドキドキしていた。
だけれど、いつも仕事の話ばかり。
ちょっとそれらしい話題を振ってみると、仕事中にそんな話題を出すなといわんばかりに冷めた目で見下ろされ、決してその話題には乗ってくれなかった。おふざけにものってくれない。
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