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「よかったら。仕事以外でも癒して欲しいんだけれど。どうかな」
真っ暗闇の窓に、ぼたん雪がひらひらと舞っている。
雪の平原は静か。ルカは涙を流していた。
「私、入社して初めて池上さんをみて――。素敵な大人のお兄さんだなって。ずっとずっと憧れていたのに」
気恥ずかしそうにうつむいてばかりいた彼が、今度は目を丸くしている。
「私だって。池上さんは大人すぎて、仕事の話しか相手にしてくれなくて。子供すぎて、女になんかみてくれていないって。ずっと前に諦めちゃっていたんですけど」
「それ。本当か」
彼も呆然としている。
ルカは涙を拭きながら、こっくりうなずいた。
「うわー。マジかよー。なんだよー。俺、馬鹿だな」
ううん。私もバカ。
即席のカレシで、今年も自分を誤魔化そうとしていた。最悪の方法。
もうちょっとで、本当に欲しかったものを永遠に失うところだったかもしれなかった。
「シェフ。俺にもワインをくれ」
ルカはぎょっとする。
車の運転は?
だけど、ルカももう子供じゃない。察した。
今夜はもう帰らない。この白い平原でルカと過ごすのだと――。
親友に呼ばれ、シェフがすっ飛んできた。
「池上、おめでとう。よ、良かったな! うん、良かった、良かった」
シェフが泣いている。
三年もクリスマスの夜の準備をしてくれていた友人に、池上さんは申し訳なさそうな顔をしていた。
「ルカさん。コイツ、無愛想で言葉が足りないけど三年も想っているような純情なやつだから。よろしく。あーこれでやっと、おまえとカノジョの為の料理ができる。よし、待ってろよ」
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