前編 ★ 我慢しろ、社長命令だ。

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 店内には小さなイートスペースも設置してるので、そこでパンをドリンクと一緒に買って食べていく客も多く、とにかくいちばん忙しいとき。  でも、こんな忙しさは慣れた日常にすぎない。  いま本当に忙しいのは『クリスマス商戦』!  十二月に入ってから、地下街は人人人で溢れる。冬休みになると可愛らしい高校生が出歩くようになり、また人が増える。  ルカのベーカリーショップも大繁盛だった。  昼のピークが過ぎ、チーフが追加で焼き上げたパンを、次の夕方の来客にあわせて店頭にそろえているときだった。 「お疲れさん」  黒いハーフコートに、スーツ姿の男性が店に現れる。  本店営業部の池上航太。五歳年上の先輩。  いつもそう、眉間にしわをよせて、きつい目つきでやってくる。  でも。ルカが新人の頃からしばらくは、恋焦がれた人だった。  ☆*。。。*☆*。。。*☆*。。。*☆*。。。*☆*。。。*☆  彼は市内五店舗の見回り担当で、週に三回ほど、この店もチェックしにやってくる。  店の雰囲気、スタッフの動き、客の様子や、商品の売れ行きなどなど。細かに観察して本部に報告している。    だがルカは彼の顔を見るなり逃げたくなった。のに、目があってしまう! 「い、池上さん。おはようございます」 「お疲れさん。売り上げも上々のようでなにより。まあ、この地下街で売れなくちゃ問題だけれどな」  いつもニコリともしない怖い顔。  シビアなことしかいわなくて、時たま、ひとこと余計な人だったりする。 「今年も頼むな」  そんな彼が、こんな時だけにっこり笑ってくれ、ルカの肩をたたいた。  こんな笑顔の時は、なにか魂胆があるとき。
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