503人が本棚に入れています
本棚に追加
店内には小さなイートスペースも設置してるので、そこでパンをドリンクと一緒に買って食べていく客も多く、とにかくいちばん忙しいとき。
でも、こんな忙しさは慣れた日常にすぎない。
いま本当に忙しいのは『クリスマス商戦』!
十二月に入ってから、地下街は人人人で溢れる。冬休みになると可愛らしい高校生が出歩くようになり、また人が増える。
ルカのベーカリーショップも大繁盛だった。
昼のピークが過ぎ、チーフが追加で焼き上げたパンを、次の夕方の来客にあわせて店頭にそろえているときだった。
「お疲れさん」
黒いハーフコートに、スーツ姿の男性が店に現れる。
本店営業部の池上航太。五歳年上の先輩。
いつもそう、眉間にしわをよせて、きつい目つきでやってくる。
でも。ルカが新人の頃からしばらくは、恋焦がれた人だった。
☆*。。。*☆*。。。*☆*。。。*☆*。。。*☆*。。。*☆
彼は市内五店舗の見回り担当で、週に三回ほど、この店もチェックしにやってくる。
店の雰囲気、スタッフの動き、客の様子や、商品の売れ行きなどなど。細かに観察して本部に報告している。
だがルカは彼の顔を見るなり逃げたくなった。のに、目があってしまう!
「い、池上さん。おはようございます」
「お疲れさん。売り上げも上々のようでなにより。まあ、この地下街で売れなくちゃ問題だけれどな」
いつもニコリともしない怖い顔。
シビアなことしかいわなくて、時たま、ひとこと余計な人だったりする。
「今年も頼むな」
そんな彼が、こんな時だけにっこり笑ってくれ、ルカの肩をたたいた。
こんな笑顔の時は、なにか魂胆があるとき。
最初のコメントを投稿しよう!