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自分に言い聞かせるのに精一杯で、ほかのスタッフの『イヤ』に手間をかけるのも『イヤ』なんだろうなと。
「……こ、今年も、トナカイ、で」
「よし。決まった。夕方の16時からこれを着て店頭にでる」
「はい」
彼がふうっとひといきついて、スタッフルームの小さな椅子に腰をかけた。
とても疲れた顔に変貌した。どの店舗も繁忙期に追われている。そのサポートに数少ない営業が走り回ってると聞かされている。
一時、ものも言わず彼がうなだれていた。
ルカもなにかコーヒーでも一杯と思ったけれど――。
「昼飯も食ってない。店で食べていく。イートスペースに座らせてもらうぞ」
「そんな。ここでゆっくり食べられたらいいのに」
それでも彼はルカの言うことなど聞き入れる様子もなく、再び、背筋を凛とさせて店頭へとでていった。
☆*。。。*☆*。。。*☆*。。。*☆*。。。*☆*。。。*☆
お店で食べる――は、彼のやり方だった。
客と同じようにトレイとトングを持って、商品を眺めて気になったパンを買う。
店の片隅にあるテーブルに腰をかけ、そこでゆっくりと食べながらも、彼の目線は入ってきた客の動向を気にしている。
そして時々、スタッフの動きも。ルカの動きも。ロボットのような表情もない、平坦なまなざしで見ている。気になって時々、レジから横目で彼を見てしまうと、目が合ってびっくりする。
集中してやれよ。そのまま客に愛想良く接客しろよとたしなめられているような気になったルカの背筋も伸びる。
食べ終わった彼がレジ横に立ってルカにささやいた。
「メロンパン、動き悪いな」
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