前編 ★ 我慢しろ、社長命令だ。

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 メロンパンは、このベーカリーを有名にした代表商品だった。それがなかなか売れていないことに営業の彼が気がついた。 「あの、郊外の本店とここでは買われるお客様のニーズが少し違う気がします」  ルカも子供の頃からここのメロンパンは大好きだった。まだ若かった社長がローカルの情報番組やCMでアピールしていたことは印象深く、この街ではメロンパンと言えばこのパン屋なのに。この駅地下では動きが悪いことは肌で感じていた。 「毎日ここの客が買っていくものを見ていて、皆川はどう思ってんの」 「大きくて食べにくい、です。メロンパンはぽろぽろパン屑になって落ちやすいので、ここで手っとり早くランチをとりたいビジネスマンにOLさんには求められていません。郊外でお持ち帰りが多い他店舗とはそこが違うと思います」  好き勝手に言ってしまいルカは我に返ったが、気がつくと彼は隣で手帳にメモをしていた。 「なるほどね。では、皆川はどうすれば売れると思う?」 「え、そんなことを私に聞いちゃうんですか」 「たとえばだよ。ここにやってくるOLさん達と同世代だろう。なんでもいいから、なにかあったら教えて」  それなら。と、ルカは続ける。 「小さくすればいいと思います。ぱくっと食べられて終わる。真ん中に生クリームなんか挟まっていたら、間違いなく午後の休憩タイムのおやつにこっそり買っちゃうかも――という話はチーフとしたことがあります」  そこで彼がにんまりと笑った。なにか魂胆があるときの微笑み。 「サンクス。チーフとも話してくる」  厨房にいるパン職人のチーフのところへ彼が行ってしまった。
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