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メロンパンは、このベーカリーを有名にした代表商品だった。それがなかなか売れていないことに営業の彼が気がついた。
「あの、郊外の本店とここでは買われるお客様のニーズが少し違う気がします」
ルカも子供の頃からここのメロンパンは大好きだった。まだ若かった社長がローカルの情報番組やCMでアピールしていたことは印象深く、この街ではメロンパンと言えばこのパン屋なのに。この駅地下では動きが悪いことは肌で感じていた。
「毎日ここの客が買っていくものを見ていて、皆川はどう思ってんの」
「大きくて食べにくい、です。メロンパンはぽろぽろパン屑になって落ちやすいので、ここで手っとり早くランチをとりたいビジネスマンにOLさんには求められていません。郊外でお持ち帰りが多い他店舗とはそこが違うと思います」
好き勝手に言ってしまいルカは我に返ったが、気がつくと彼は隣で手帳にメモをしていた。
「なるほどね。では、皆川はどうすれば売れると思う?」
「え、そんなことを私に聞いちゃうんですか」
「たとえばだよ。ここにやってくるOLさん達と同世代だろう。なんでもいいから、なにかあったら教えて」
それなら。と、ルカは続ける。
「小さくすればいいと思います。ぱくっと食べられて終わる。真ん中に生クリームなんか挟まっていたら、間違いなく午後の休憩タイムのおやつにこっそり買っちゃうかも――という話はチーフとしたことがあります」
そこで彼がにんまりと笑った。なにか魂胆があるときの微笑み。
「サンクス。チーフとも話してくる」
厨房にいるパン職人のチーフのところへ彼が行ってしまった。
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