前編 ★ 我慢しろ、社長命令だ。

7/9
前へ
/17ページ
次へ
 ☆*。。。*☆*。。。*☆*。。。*☆*。。。*☆*。。。*☆  16時になる。  トナカイの時間です。 「さあ、やるぞ」  白髭をつけ、真っ赤なサンタクロースになってしまった彼の空元気。  ルカもついに、ずんぐりむっくりのトナカイの着ぐるみで店頭に出た。  店の入り口に設置したテーブルに、ブッシュドノエルの箱を並べる。  当店特製のブッシュドノエルですー!  今年の限定品です、いらっしゃいませ!  池上先輩と声を張り上げた。  ママ、サンタさんー。トナカイもいるよー。  通りがかりの小さな子供に見つけてもらうと、無条件に手を振ってしまう。  やーん、トナカイの着ぐるみ!  女の人が着ているじゃん~。  可愛い十代の女の子たちに指さされると、今年もどこかに逃げたくなる。 「気にするな」  池上さんがフォローしてくれる。  だけどサンタ姿になった彼を見て、ルカはますます悲しくなる。 「あの駅地下って。この都心でいちばんお洒落なスポットのはずなのに。どーして、こんな子供だましな販促をしなくちゃいけないんですか。池上さんがどんなに髭をつけたって、どーみたって若い男性にしか見えませんから」  毎年毎年! そもそも社長の考えが古くさい!  メロンパンだって定番商品だけれど、一歩間違えれば時代遅れ。  他の商品だってどこか田舎臭い。  それを一新させたのが、この地下街への進出だった。  社長が若手のパン職人に任せるようになったから。  若い営業マンを増やして、彼らのアンテナを頼るようになったから。 「なのに。お洒落なパン屋さんの店先で、着ぐるみなんて……」  一昨年なんてもっとひどかった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

504人が本棚に入れています
本棚に追加