喫煙所の君

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喫煙所の君

毎朝寄る喫煙所、必ず会うあの人。会釈を交わすだけで会話した事はない。 皆が無煙タバコを吸う中であの人は紙巻き。俺もだけど。燻る煙に顔を顰め、目を瞑る。 背が高くて、スーツ越しでもわかる筋肉質な身体。めちゃくちゃカッコいいんだ。 俺はゲイでも無いし、言ったら美人で有名な彼女がいる。男にときめいた事さえ無い。 なのに彼だけはなぜか…目が離せない。じっと見つめるのも失礼だからチラチラ横目でしっかり見てしまう。 たまに目が合うから…そしたら…フッと笑うんだ。 そんな時間に奇跡が起きた。 「火、貸してくんね?」 「へ?」 「ライター貸して」 「ああ…どうぞ」 その人はタバコを咥えたまま俺に顔を近づける。 付けろって事か? カチっ 「ふぅ…どうも」 「いえ…」 「あんた、毎朝会うな」 「ええ、そうですね…」 「いつも俺の事、横目で見てんだろ?」 「す、すみません。もう見ません」 「ふ…別に減りゃしねーよ。そんなに見たきゃ正面から堂々と見ろよ。可愛いやつ」 彼はそう言って、俺の正面に立つ。 「どうだ?感想でも聞こうか?」 「いや…カッコいいです…ね…」 「ありがとな、けど言われ慣れててつまんねぇけど」 「タバコに火をつけた後、煙に顔を顰めるのが好きです」 「は?」 「いや!すいません。えっと…その顔がカッコよくて…いつも見てました」 「正直でよろしい、あんたゲイなのか?」 「いえ…違います。彼女がいますし…あなただけです、カッコいいと思う男性は」 「ゲイじゃないのか…残念。でも光栄だな。さぁ、仕事戻るか…じゃあな可愛い子ちゃん、火ありがとな」 「はい…また…」 名前ぐらい聞けば良かった、せめて名乗れば良かった。 俺がゲイじゃないのが残念って?じゃあ、俺がゲイだったらアリって事か? いやいや…俺は何考えてんだ。美香もいるだろう?誰もが羨ましがる美人な彼女が。 そもそもゲイってなりたくてなれるもんなのだろうか?
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