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「あ、意外と近かったんですね。ごめんなさい、私方向音痴で」
「あ、いえ……」
「今だったらちょうどお客さんもいないみたいだし、行ってきますね。本当にありがとうございました」
彼女は笑顔も素敵な人だった。
見たら傷つくのは分かっていたけれど、中に入っていく彼女を目で追うのをやめられなかった。
扉の開く音で最初はお客さんだと思ったのか。
あんなに驚いた表情の草凪さんを初めて見た。
そして、すぐに優しい笑顔になった彼は、彼女に近づいて行って、そっと抱きしめた。
あんな風に愛おしいと思うような瞳で彼女のこと見るんだ。
だんだんと視界がにじんできて、逃げ出すようにその場を立ち去るしかなかった。
本当に彼女がいたなんて……
この数か月、彼だけしか見えていなかった。
あんなに毎日のように喫茶店に通ったのに。
すれ違う人たちの視線を集めながら、泣きながら帰宅するのは初めてだった。
今回は告白することもなく終わってしまって、不完全燃焼の状態で悔しさしか生まれない。
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