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誰もが、日常或いは非日常の体験の中で、幾つかの衝撃的な記憶を持っている。
その体験は、年齢と共に、十分対応可能となるが、幼少期となると、重大なものになり得る。
それは、決して悪しき記憶とは限らず、幸福感に溢れた良い記憶の場合もある。
ただ…往々にして、忘れ去りたいものが多い。
俗に言う『Trauma(トラウマ)』である。
発祥は古く、ギリシャ語で『単なる傷』という意味で生まれた言葉が、ある精神科医によって『精神的な傷』という意味に変わった。
そしていつしか、ドイツ語圏内を経て英語になり、日本語としても使われているのである。
医学的には、暫し米国の戦場帰還兵の問題として世に知れている PTSD(Post Trumatic Stress Disorder)と呼ばれ、外傷後ストレス障害と、心的外傷後ストレス障害に分けられる。
トラウマは、様々な身体的・精神的障害をもたらすが、そのほとんどは一過性で、時間とともに改善するものが多い。
しかし、自身や近親者の生命や身体に、重大な脅威となった心的外傷は、時間の経過だけでは癒されず、『心の傷』として深層心理に潜む。
そして、ある日突然遭遇した再体験や、類似した情景の視覚的刺激により、当時の感情や身体感覚が甦ることがある。
それを、Flashback《フラッシュバック》と呼ぶ。
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