2章. 誤算

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アイが、いつも通りシステムに侵入し、モニターに衛星からの映像が映る。 「これは歌舞伎町の…」 「ええ、みんな40〜50代がターゲットだから、あまりこの事件は、注目してなかったわよね」 ラブの言う通りである。 「この路地の出入り口には、監視カメラもないしね。私は、豊川さんが共通点を見つけたから、調べてみたの」 映像が進み、犯行推定時刻を迎えた。 バイクが1台停まり、ヘルメットシールドを上げて、路地の中を覗き込む。 映像を拡大するアイ。 「被害者の中村隆一です」 「まだ若いのに…」 富士本が悲し気に目を細める。 バイクを降りた彼が、路地へと入りながらヘルメットを脱ぐ。 その向かう先。 路地の中ほどに、壁にもたれた人影が、微かに見えた。 「暗い路地に黒い帽子、黒い服。いつからいたんだ?」 「2時間前からです」 「何だって!2時間も1人で?」 (アイ、止めて) 淳一が呆れた所で、ラブが映像を止めた。 目を閉じている。 「どうしたの、ラブさん?」 心配気な咲の声に、目を開けるラブ。 そして、淳一を見た。 「他の現場でも、約2時間前に、黒ずくめの人物が路地裏へ入るのを確認しました。犯人と見て間違いないでしょう」 「しかしラブさん、男かも知れねぇが、どう見ても強そうじゃないぜ?」 「淳一さん、紗夜さんから連絡は?」 「えっ?…いや、まだだが…まさかこれが紗夜って言うんじゃねぇよな、ラブ?」 紗夜の右手には、ある力が宿っている。 そのパワーは、淳一も咲も知っていた。 「アイ、お願い」 映像が動き出す。 男が近付き、どうやらもめている様に見えた。 と、その時である。 路地の反対側の入り口に、1人の女性がいた。 「紗夜っ⁉️」 淳一、咲、富士本が同時に叫んだ。 走り出した紗夜が、男を止めようとして、振り切られ、壁に激突して倒れる。 「そんな…紗夜❗️」 淳一がモニターに叫ぶ。 「あ、紗夜さん…動いてます」 昴が僅かな動きに気付いた。 皆んなが紗夜に注目していた時。 既にヘルメットは、黒い影の手にあった。 そして… 「なっ⁉️何っなのアイツ❗️」 目に見えない速さでヘルメットが振られ、一瞬で男の頭部が、壁との間で半分程に潰れた。 仰向けに崩れ落ちた男のそばで、影がしゃがみ込み、さらに何度も顔面を打ち潰す。 潰される音が聞こえる気がして、咲の体がブルっと震えた。 全身を蟻がはう様な(おぞ)ましい感覚。 戸澤の背中を寒気が走る。 半身を起こして、それを見ていた様子の紗夜。 その体が、力なく地面に落ちた。 「紗夜⁉️」 叫ばずにはいられない淳一。 「そんな…紗夜…」 富士本が震えながら後ずさり、足がもつれて尻から落ちる。 富士本の感じた恐怖を、ラブと昴は全身で感じ取った。 「そんな…」 思わずの言葉さえ途切れる。 そこで画像が消えた。 別の衛星との干渉を防ぐために、自動的に停止したのである。 2分後に映された映像には、もう紗夜と影は消え、男だけが横たわっていた。 今見た光景を、常識という概念が、否定しようと必死に足掻(あが)く。 しかし、その強烈な事実からは逃げられない。 夫である淳一が、その重い沈黙を破った。 「紗夜を、ヤツが連れ去ったのか?あんなバケモノが紗夜を⁉️」 「淳一さんシッカリして、紗夜さんなら大丈夫よ。もし犯人が手を掛けたら、紗夜の中にが、必ず護るはず」 「でも…目撃者を…逃がすはずはないわね。きっと連れ去り、今も一緒に…」 「紗夜は…今の光景を見たのか…なんてことだ」 富士本の記憶が甦る。 「紗夜の最初の育ての親、姫城警部も、ヘルメットで顔を何度も殴られ、殺されたんだ。幼い紗夜の目の前で…」 「マジかよ…ヤバいなそりゃ、クソッ!」 戸澤でさえ、紗夜の気持ちは想像できた。 想定外の犯人と、紗夜の誘拐。 手掛かりはまだ無いに等しい。 漂う絶望感を振り払うラブ。 「昴さん、路地に入る犯人を、CAPS(キャップス)で解析してください。私達は哀川さんから届いた小型ドローンの資料を調べましょう」 「俺は、もう一度現場で、紗夜の跡を探して来る。無駄かも知れねぇが、誰か見てるかも知れねぇ!」 「俺も手伝うぜ」 出て行く淳一と戸澤を、誰も引き留めることは出来なかった。
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