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アイが、いつも通りシステムに侵入し、モニターに衛星からの映像が映る。
「これは歌舞伎町の…」
「ええ、みんな40〜50代がターゲットだから、あまりこの事件は、注目してなかったわよね」
ラブの言う通りである。
「この路地の出入り口には、監視カメラもないしね。私は、豊川さんが共通点を見つけたから、調べてみたの」
映像が進み、犯行推定時刻を迎えた。
バイクが1台停まり、ヘルメットシールドを上げて、路地の中を覗き込む。
映像を拡大するアイ。
「被害者の中村隆一です」
「まだ若いのに…」
富士本が悲し気に目を細める。
バイクを降りた彼が、路地へと入りながらヘルメットを脱ぐ。
その向かう先。
路地の中ほどに、壁にもたれた人影が、微かに見えた。
「暗い路地に黒い帽子、黒い服。いつからいたんだ?」
「2時間前からです」
「何だって!2時間も1人で?」
(アイ、止めて)
淳一が呆れた所で、ラブが映像を止めた。
目を閉じている。
「どうしたの、ラブさん?」
心配気な咲の声に、目を開けるラブ。
そして、淳一を見た。
「他の現場でも、約2時間前に、黒ずくめの人物が路地裏へ入るのを確認しました。犯人と見て間違いないでしょう」
「しかしラブさん、男かも知れねぇが、どう見ても強そうじゃないぜ?」
「淳一さん、紗夜さんから連絡は?」
「えっ?…いや、まだだが…まさかこれが紗夜って言うんじゃねぇよな、ラブ?」
紗夜の右手には、ある力が宿っている。
そのパワーは、淳一も咲も知っていた。
「アイ、お願い」
映像が動き出す。
男が近付き、どうやらもめている様に見えた。
と、その時である。
路地の反対側の入り口に、1人の女性がいた。
「紗夜っ⁉️」
淳一、咲、富士本が同時に叫んだ。
走り出した紗夜が、男を止めようとして、振り切られ、壁に激突して倒れる。
「そんな…紗夜❗️」
淳一がモニターに叫ぶ。
「あ、紗夜さん…動いてます」
昴が僅かな動きに気付いた。
皆んなが紗夜に注目していた時。
既にヘルメットは、黒い影の手にあった。
そして…
「なっ⁉️何っなのアイツ❗️」
目に見えない速さでヘルメットが振られ、一瞬で男の頭部が、壁との間で半分程に潰れた。
仰向けに崩れ落ちた男のそばで、影がしゃがみ込み、さらに何度も顔面を打ち潰す。
潰される音が聞こえる気がして、咲の体がブルっと震えた。
全身を蟻がはう様な悍ましい感覚。
戸澤の背中を寒気が走る。
半身を起こして、それを見ていた様子の紗夜。
その体が、力なく地面に落ちた。
「紗夜⁉️」
叫ばずにはいられない淳一。
「そんな…紗夜…」
富士本が震えながら後ずさり、足がもつれて尻から落ちる。
富士本の感じた恐怖を、ラブと昴は全身で感じ取った。
「そんな…」
思わずの言葉さえ途切れる。
そこで画像が消えた。
別の衛星との干渉を防ぐために、自動的に停止したのである。
2分後に映された映像には、もう紗夜と影は消え、男だけが横たわっていた。
今見た光景を、常識という概念が、否定しようと必死に足掻く。
しかし、その強烈な事実からは逃げられない。
夫である淳一が、その重い沈黙を破った。
「紗夜を、ヤツが連れ去ったのか?あんなバケモノが紗夜を⁉️」
「淳一さんシッカリして、紗夜さんなら大丈夫よ。もし犯人が手を掛けたら、紗夜の中にいるものが、必ず護るはず」
「でも…目撃者を…逃がすはずはないわね。きっと連れ去り、今も一緒に…」
「紗夜は…今の光景を見たのか…なんてことだ」
富士本の記憶が甦る。
「紗夜の最初の育ての親、姫城警部も、ヘルメットで顔を何度も殴られ、殺されたんだ。幼い紗夜の目の前で…」
「マジかよ…ヤバいなそりゃ、クソッ!」
戸澤でさえ、紗夜の気持ちは想像できた。
想定外の犯人と、紗夜の誘拐。
手掛かりはまだ無いに等しい。
漂う絶望感を振り払うラブ。
「昴さん、路地に入る犯人を、CAPSで解析してください。私達は哀川さんから届いた小型ドローンの資料を調べましょう」
「俺は、もう一度現場で、紗夜の跡を探して来る。無駄かも知れねぇが、誰か見てるかも知れねぇ!」
「俺も手伝うぜ」
出て行く淳一と戸澤を、誰も引き留めることは出来なかった。
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