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〜埼玉県所沢市〜
都内から1時間足らずで、BMWが着いた。
所沢医科大学病院。
「精神科は、ミカさんにはキツいかな…」
千尋の様子を見た瑞樹。
「ミカさんは、カフェで待っていてください。意外といけるんですよ、ここのコーヒー」
「千尋さんのお母さんは、精神科に?私は大丈夫です。1人でいたくない気分なので…お邪魔なら控えますが」
「い、いえ💦邪魔だなんて」
慌てる千尋を不思議そうに見るミカ。
「瑞樹が言ったのね。全くもう」
「いえ、千尋さんがさっき言ってましたので」
顔を見合わす千尋と瑞樹。
訳が分からない。
「まぁ…いいか。なら行きましょ」
「千尋のやつどうしたってんだ?」
「瑞樹を庇うなんて、気でもあるのかしら?」
不自然な会話に、黙るミカ。
(何か悪いこといったのかな?私)
ロビーを抜けて、別棟へと繋がる通路を通り、精神科の受付に着く。
「また来たのねあの娘、あら?見慣れない顔ね、誰かしら」
「えっ?」
受付の笑顔を見ていて、驚くミカ。
「何、ミカさん? 水谷さんと知り合い?」
「いえ、何でもないです」
笑顔の口は、閉じたまま。
更に、作り笑いの心理も感じた。
記憶障害に、別の不安感が加わる。
それは、直ぐに明らかな現実となった。
病棟の中へ入る3人。
二重のドアを開けた途端。
ミカの頭に、沢山の嘆きや悲鳴、言葉さえ分からない意味不明な呟きが響き渡る。
同時に、悲しみや絶望、恨み妬み痛み嘲り苦悩、ありとあらゆる想いがミカの心を襲った。
「グッ…」
思わず耳を塞ぎ、うずくまる。
「リカさん❗️大丈夫?どうしたの!」
しゃがみ込み、肩に手を当てる千尋。
ビクンッ!としたリカが、その手を振り払う。
その勢いで後ろに座り込む千尋。
「大丈夫か!とにかく、外へ出よう」
瑞樹が看護師を呼ぶ。
ミカの意識がかすみ、床に倒れ込んだ。
近付く看護師の姿と瑞樹の声。
そこまでで、気を失った。
丁度通りがかった医師が、検査室へ運ぶ様に指示をする。
「千尋、ミカさんには私がついているから、君はお母さんに会ってくればいいよ」
心配気なミカ。
「千尋さん、心拍も異常ない様だし、大丈夫ですよ。私が診ますから」
「分かった。よろしくお願いします。」
千尋を残して、運ばれて行くリカ。
精神科病棟を出て、先に向かったのは、脳神経科であった。
「瑞樹さん…でしたね?彼女には、何か精神障害がありませんでしたか?」
「えっ?…あ、実は頭を打って、記憶を無くしてる様なんです」
「やはりそうですか」
帽子が脱げて、頭の包帯が露わになっている。
「精神障害を持つ人は、心理的刺激に弱くなっています。気付かずに初めて来た方で、良くあるんですよ、気分が悪くなったり、目眩や気を失ったり。記憶障害なら尚更、無防備な状態に、患者達の異常な声や、目に見えない何かをまともに受けてしまいます」
「目に見えない何か?」
「医師が言うことではないですが、強いて言えば、脳波の様なもの?かな。ここにいると、医学的には理解できないことも沢山あるんです」
瑞樹には良く分かる気がした。
「少し脳波を見させて下さい。まだ患者でもありませんし、治療ではないので、お金は要りません」
『検査室』と表示された部屋へ入る。
中には、幾つかの装置があり、その一つにミカを座らせ、倒れないように固定した。
「これは、EEGヘッドセット AE-120Aと言って、最近購入した脳波測定器です」
看護師と2人で手際よくセットし、無線で繋がったPCで操作する。
直ぐに画面に脳波が現れる。
瞬間、首を傾げる医師。
「β波が強い…刺激を」
言われた看護師が、針状の器具を軽く腕に当てる。
「おかしい…」
「どうしたんですか?」
「これはβ波と言って、ストレスを感じている時に見られるもの。普通気絶状態では、こんなに強くは現れないんですよ。更に不思議なのは、気絶時、つまり無意識状態を示すα波も同時に出ている。君、少し肩を持って揺らして見て」
看護師が、ミカの体を揺らす。
意識は戻らない。
「揺らす前から、β波が強くなった。彼女には今の状況が見えているとしか思えない。あり得ないことだが…」
「先生」
「あ、すまない。そうですね、脳に損傷はないようだから、今は横になって休ませましょう。君、治療室のベッドへ運んでくれ」
「分かりました。…キャ❗️」
ベッドセットを外そうとした看護師が、何かに驚いて後ずさる。
「おい、どうした?」
「か…彼女が…」
見つめる先に、目を開いたリカがいた。
状況が飲み込めずキョロキョロしている。
「あ、気が付きましたか。良かった良かった。君は気を失ったので、念のため検査していたんだよ。心配はいらないですが、暫くは気をつけてくださいね。ほら、早く外してあげて」
看護師が首を傾げながら、作業に戻る。
(あの目は…気のせいかな)
看護師の口元に注目するミカ。
(やっぱり、声は出ていない…っ!何?)
ミカの脳裏に、得体の知れない恐怖が浮かんだ。
(これが、彼女が見たもの…これが私?)
「はい、もう立っていいですよ」
(気のせいね、疲れてるからかな)
「ありがとうございます」
「先生、お世話かけました。さぁ、千尋が出てくるまで、カフェで待ちましょう」
(良かった…記憶は戻ってないか)
(良かった…?)
自分の能力に気付いたリカ。
この2人が隠しているもの。
それを確かめよう。
そう思ったミカであった。
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