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1章. 継続する凶行
年の瀬。
古くから、一般的には12月半ばから大晦日までを指す表語として使われて来た。
現代においても、その言葉自体は使われなくとも、聞けば誰もが何故か知っている。
恐らくは、日本人のDNAに潜在的に残るもの。日本文化の記憶の一つであると言える。
慌ただしい中にも、和の風潮が漂う。
それは、大都市東京でも同じこと。
そんな折に於いて、不本意にも忙しくなる所。
それが、警察署や消防署であった。
特に夜の事件発生率は、最も高い期間となる。
〜警視庁凶悪犯罪特別捜査本部〜
東京台場にある、この30階建てのビルも、ご多分に漏れず、2つの事件を抱えながら、毎夜の事件に追われていた。
20:15。
刑事課の電話が鳴る。
「はい、警視庁刑事課、どうしました?」
ベテラン刑事、鳳来咲が受け、スピーカーフォンに切り換える。
ミニスカハイヒールは、真冬でも変わらない。言わば彼女のステータスの一部である。
「新宿の栄ビル12階にて、爆破事件発生。マル被は橋本法律事務所。被害状況はまだ不明。至急応援願います」
「橋本って、前回も板橋で狙われたよな?」
「淳、戸澤、現場へ。昴は監視カメラ映像を探って!」
「はいよ!っと、行きますか、戸澤さん」
宮本淳一。
ボヤキは多いが、正義感あるベテラン刑事。
戸澤公紀。
元公安部、1年の停職処分返上で、引き抜かれた新人の切れ者。
神崎昴。
若手ながら、情報機器に優れ、刑事課には珍しい頭脳派刑事である。
「4件目か…」
ホワイトボードに貼られた、3件の爆破事件を見ながら、刑事部長の富士本恭介が呟く。
「恐らく、同一犯ね」
この3日で、爆破事件が連続していた。
全ての対象は、弁護士や裁判官事務所である。
「紗夜から連絡は?」
「まだありません、新宿に詳しい神にも協力してもらってんだけど、なかなか」
「…後半は聞かなかったことにするぞ💧」
ため息をつく富士本。
宮本紗夜。
読心能力を持つ心理捜査官で、淳一の妻。
飛鳥神。
関東を束ねるヤクザ、飛鳥組の組長でありながら、その正義感で、警察にも協力していた。
咲とは恋人の仲?…の様である。
紗夜が追っているのは、飲み屋街で連続している、連続殺人事件であった。
被害者はいずれも、40〜50代の酔っ払いのサラリーマン。
凶器は定まらず、何にしろ、破壊的な力による撲殺であり、マル害はかなり怪力の持ち主と見られていた。
「ダメですね。ビルの玄関には監視カメラがありますが、12階は周りの監視カメラにも映っていません」
告げる昴の目が、催促していた。
「仕方ない、全く…分かった。頼んでみろ」
富士本が言い終わる前に、電話をかける昴。
〜TERRAコーポレーション〜
警視庁対策本部ビルの隣にある、地上360m、70階のエンターテイメント会社。
オーナーは、トーイ・ラブ。
音楽や女優として、世界的な人気スターでありながら、国連や政界にも携わり、機密組織EARTHをも率いていた。
第15スタジオで、年末生番組のリハーサルをしていたラブの頭に、マザーシステム AIの声が届く。
(昴様からお電話です)
(繋いで)
「ちょっとすみません」
そう言って、近くの電話をとるラブ。
「昴さん、また爆破ですか?」
「忙しいところをすみません。データを送りましたので、よろしくお願いします」
「了解、後はアイに任せて。監視衛星からの映像を送るわ。大変ね、お互い忙しくて」
マネージャーの新咲凛のマキが入る。
「じゃあ💦またね」
電話を切り、リハーサルへと戻る。
その脳裏では、一連の爆破事件のデータが広げられていた。
(もしかしたら、かなり小型の…)
現時点では、2つの連続事件について、犯人の手掛かり一つ、掴めてはいなかったのである。
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