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〜東京世田谷区〜
床暖房の効いた広い部屋に、頭に包帯を巻いた女性が横たわっていた。
「…ったく、夜は1人で外に出ちゃダメだって言っただろうが。おまけに、お土産まで持ち帰りになったし」
「ごめんない。でも私には止められなくて」
その会話に、ふと意識が戻った。
「痛ッ!」
起き上がろうとして、頭に痛みが走る。
「あ、気が付いたみたい」
女性が来て、肩に手を当てる。
「慌てないで大丈夫、頭をぶつけた様で、少し傷になってたけど、手当てはしたから」
彼女の手を借りて上体を起こし、床に座る。
「ここは…どこ?あなたは…誰?」
状況が理解できず、それだけではなく、何も思い出せないことに気付いた。
「私は…誰?そんな…何も思い出せない」
何も見えず、両手は後ろで拘束されている。
動かすとガチャガチャと金属音がした。
「手錠?目隠し?どうしてそんな!」
「落ち着いて。本当に何も覚えてないの?」
「…何も覚えてない」
焦りが不安に変わる。
「頭を打ったせいじゃないか?」
彼の声に振り向く彼女。
その顔に負けた彼。
「千尋、ほらよ。大丈夫だろう」
投げられた鍵を受け取る。
「ごめんなさい。あなたは頭から血を流して、道に倒れてたの。大した傷ではなかったから、ここに運んで手当てして、念の為に…ね💦。ごめんなさい、今外すから」
千尋が手錠を外し、ゆっくり目隠しも取る。
心配気に首を傾げ、顔を見つめる。
「では、あなた達が助けてくれたの?」
「まぁ…そうなるかな」
そばに彼もやって来た。
「彼は瑞樹、彼の車で運んだのよ」
「大丈夫そうだな。朝食の用意は出来てるから、2人で食べてな。僕は仕事に行くから」
「あ、ありがとう…ございます。何か分からないけど、助けてもらって」
「気にしないで、一晩中うなされてたよ。悪い夢でも見てたのね。安全な人だと分かっていたら、ベッドに運んだんだけど…」
床の枕と、掛けられていた柔らかな毛布。
2人が優しい人だと言うことは分かった。
「瑞樹、行ってらっしゃい。今日は会社休んで、彼女と一緒にいるわ」
「それがいい。必要なら、マリアに伝えて、医者を呼んでもらってくれ。部屋も用意させるから、客間のベッドで休んでいた方がいいよ。じゃあ」
ドアを閉めて出て行く。
「さて、立てるかな?」
「はい、大丈夫だと思います。あ、そうだ」
立ち上がりながら、ポケットを探る。
「ごめん。私たちも、身元が分かるものを探したんだけど、何も無かったわ。盗まれた様ね」
「そうですか…」
落胆する彼女。
「そうね、え〜と…ミカにしよっか。名前ないと不便だから」
「ミカ…ですか。…はい、分かりました。お世話になります、痛ッ!」
「ほらほら、頭なんて下げなくていいから。朝ご飯にしましょ」
釈然としないながらも、今は優しさに甘えるしかないと思うミカであった。
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