6章. Flashback

3/3
前へ
/37ページ
次へ
〜六本木〜 23:00。 ビルの壁面に設置された巨大な液晶ビジョン。 その前に立ち尽くす千尋。 その目の先では、今夜の爆破事件映像と、関連するニュースが映し出されていた。 「お…お母さんが…死んだ…。どうして…」 (痛っ❗️) 砕かれる様な痛みに、頭を抱えてうずくまる。 心臓が熱く脈打ち、息が苦しい。 脳裏で、様々な記憶が時を遡って行く。 (なんなの?私は…そんな…) 記憶の遡行は、あの日で止まった。 母をいやらしい言葉で侮辱され、千尋も同じように(はずかし)められた。 先生にまで。 怒りに任せて突き飛ばした男子が、窓を突き破り、2階から転落した。 怖くなって、泣きながら走ってアパートへ帰ったあの日。 昼間はほとんど家にいる母の香苗が、夜勤の北川亮介の弁当を作っていた。 後ろから北川が抱きしめ、口づけをした。 北川の手が胸元に入り、甘い声と共に香苗は包丁を置き、ふたりはしゃがみ込む。 その時、千尋の存在に気付いた。 淫らな母の姿を見た千尋が走り込み、包丁を握って北川を襲った。 気付いた時には、目の前には母の香苗がいた。腹部に深く刺さった包丁の周りが、見る見る赤く染まり、床に血溜まりができていく。 北川が、自分に何か言っていた。 そこで記憶は消える。 「わ…わたしが、お母さんを…」 閉ざしていた記憶が戻った。 「そんな…お母さん…お母さん…」 座り込んで涙を溢しながら呟く千尋。 気味悪がって避ける人々。 手を差し伸べる者はいない。 「…なお、連続爆破犯として逮捕されていた、本間貴金属工業社長、本間瑞樹容疑者は、刑事である容疑者、宮本紗夜の出現で、一変して容疑を否認し、顧問弁護士を携え、控訴する姿勢を表明しました」 千尋の呟きが消える。 「本間…瑞樹…」 呟いた途端、また記憶がFlashbackを始める。 突然、渋谷のアパートに現れた瑞樹。 プレゼントがあると言って、目隠しをされ、車で世田谷の邸宅へ。 中へ入った時の、西洋のお香の様な香りに、軽い目眩を感じた。 部屋へ入り椅子に腰掛けた。 耳元で何かを呟かれ、『いいよ』と言われて目隠しを外した瞬間、『パーン💥』と大きなクラッカーが鳴った。 『これからは、ここが千尋の部屋だよ』、そう言われて住み始めたのであった。 瑞樹はいつも、探偵から受け取った資料を、書斎のデスク上に置いていて、いない時に千尋は見ていたのである。 いや、違う。 見させられていたのだと今気付いた。 なぜそうしたのかは分からない。 瑞樹に見つからない様に早めに行き、人通りの少ない路地裏でその時を待った。 自分じゃない自分が、人を殺すシーンも断片的に思い出した。 そして、気が付くといつも家で、瑞樹もいて、殺人の記憶はない。 現実に戻る千尋。 今となっては、どうでも良かった。 ゆっくり立ち上がり、路地裏へ入って行く。 ある決意を胸に。 そこから500m離れたカフェに、瑞樹はいた。 千尋の服に仕込んである発信機で位置を特定し、ターゲットを待つ。 携帯が鳴った。 「野々宮先生、遅くにすみません。どうしても2人だけで話がしたくて」 「構わんよ、明日からのことについて、私も少し確認したくてな」 「コンビニの門から、路地裏を抜けて貰えますか?向こう側で待っています」 野々宮良臣。 母の訴えを棄却させた、闇の支配者。 電話を切り、操作用端末を取り出す。 慣れた手際で、キーを叩き、画像を確認する。 近くのビルの屋上から、小型ドローンが発つ。 2つの運命、その瞬間が訪れようとしていた。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

150人が本棚に入れています
本棚に追加