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〜六本木〜
23:00。
ビルの壁面に設置された巨大な液晶ビジョン。
その前に立ち尽くす千尋。
その目の先では、今夜の爆破事件映像と、関連するニュースが映し出されていた。
「お…お母さんが…死んだ…。どうして…」
(痛っ❗️)
砕かれる様な痛みに、頭を抱えてうずくまる。
心臓が熱く脈打ち、息が苦しい。
脳裏で、様々な記憶が時を遡って行く。
(なんなの?私は…そんな…)
記憶の遡行は、あの日で止まった。
母をいやらしい言葉で侮辱され、千尋も同じように辱められた。
先生にまで。
怒りに任せて突き飛ばした男子が、窓を突き破り、2階から転落した。
怖くなって、泣きながら走ってアパートへ帰ったあの日。
昼間はほとんど家にいる母の香苗が、夜勤の北川亮介の弁当を作っていた。
後ろから北川が抱きしめ、口づけをした。
北川の手が胸元に入り、甘い声と共に香苗は包丁を置き、ふたりはしゃがみ込む。
その時、千尋の存在に気付いた。
淫らな母の姿を見た千尋が走り込み、包丁を握って北川を襲った。
気付いた時には、目の前には母の香苗がいた。腹部に深く刺さった包丁の周りが、見る見る赤く染まり、床に血溜まりができていく。
北川が、自分に何か言っていた。
そこで記憶は消える。
「わ…わたしが、お母さんを…」
閉ざしていた記憶が戻った。
「そんな…お母さん…お母さん…」
座り込んで涙を溢しながら呟く千尋。
気味悪がって避ける人々。
手を差し伸べる者はいない。
「…なお、連続爆破犯として逮捕されていた、本間貴金属工業社長、本間瑞樹容疑者は、刑事である容疑者、宮本紗夜の出現で、一変して容疑を否認し、顧問弁護士を携え、控訴する姿勢を表明しました」
千尋の呟きが消える。
「本間…瑞樹…」
呟いた途端、また記憶がFlashbackを始める。
突然、渋谷のアパートに現れた瑞樹。
プレゼントがあると言って、目隠しをされ、車で世田谷の邸宅へ。
中へ入った時の、西洋のお香の様な香りに、軽い目眩を感じた。
部屋へ入り椅子に腰掛けた。
耳元で何かを呟かれ、『いいよ』と言われて目隠しを外した瞬間、『パーン💥』と大きなクラッカーが鳴った。
『これからは、ここが千尋の部屋だよ』、そう言われて住み始めたのであった。
瑞樹はいつも、探偵から受け取った資料を、書斎のデスク上に置いていて、いない時に千尋は見ていたのである。
いや、違う。
見させられていたのだと今気付いた。
なぜそうしたのかは分からない。
瑞樹に見つからない様に早めに行き、人通りの少ない路地裏でその時を待った。
自分じゃない自分が、人を殺すシーンも断片的に思い出した。
そして、気が付くといつも家で、瑞樹もいて、殺人の記憶はない。
現実に戻る千尋。
今となっては、どうでも良かった。
ゆっくり立ち上がり、路地裏へ入って行く。
ある決意を胸に。
そこから500m離れたカフェに、瑞樹はいた。
千尋の服に仕込んである発信機で位置を特定し、ターゲットを待つ。
携帯が鳴った。
「野々宮先生、遅くにすみません。どうしても2人だけで話がしたくて」
「構わんよ、明日からのことについて、私も少し確認したくてな」
「コンビニの門から、路地裏を抜けて貰えますか?向こう側で待っています」
野々宮良臣。
母の訴えを棄却させた、闇の支配者。
電話を切り、操作用端末を取り出す。
慣れた手際で、キーを叩き、画像を確認する。
近くのビルの屋上から、小型ドローンが発つ。
2つの運命、その瞬間が訪れようとしていた。
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