終章. 運命の終止符

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〜港区六本木〜 深夜とは言え、年末の繁華街は人通りが多い。 寒波が南下し、この冬1番の冬型となった。 路地裏へ入りかける野々宮。 その後を追う小さな赤い光。 凛の暗視スコープが、それを捕らえた。 拡大し、爆発しない様に、通信機部分を狙う。 距離280m、風はない。 「バシュ!」 車の中で本間が起爆スイッチに指を置く。 「何⁉️」 ドローンからの画像が消え、起爆も効かない。 凛の放った銃弾が、的確に打ち砕いていた。 「Mission complete.」 「了解。凛、ティーク、お疲れ様」 ラブからの返信を聞いて、引き上げる2人。 「ラブ、6:45にPスタジオよろしくね」 「了解、凛💧」 (ふぅ〜) 「スターは大変ね、申し訳ないわ」 ヘリの中から、東京の夜景を見下ろしながら、紗夜が呟く。 「いつものことよ💕」 笑顔で答えながらも、ラブはまだ分かっていない真実を考えていた…違うことを願いながら。 〜六本木〜 本間が車を移動させる。 「クソッ!」 路地裏へ入る野々宮。 暗闇にしゃがみ込んでいる影に気付く。 (こんな時間に、女の子か?) 見た感じではかなり若いことが分かった。 連続撲殺事件は知っている。 しかし、その華奢(きゃしゃ)な体つきでは考えられず、周りに武器になる物も見当たらない。 「どうかしましたか?大丈夫ですか?」 念の為、距離を保って尋ねる。 「私が…お母さんを…アイツが…お母さんを…」 呟きは何とか聞き取れた。 真剣に心配になり、近寄ってしゃがみ込む。 (女の子じゃないか) 「こんなところにいちゃいけない。さあ、立って暖かい店にでも行きましょう」 肩に手を伸ばそうとした時。 「野々宮先生。お待たせしました」 路地の出口に本間瑞樹がいた。 その声に、呟きが止まる。 「彼女は、私の連れです。千尋、お前も一緒においで。家へ帰ろう」 ゆっくり歩き出す瑞樹。 「連れって君、こんなところに…」 その横で、千尋が立ち上がった。 「うわっ⁉️」 その左手を見て、野々宮が慌てて退がる。 瑞樹には暗くて見えていない。 「さあ、帰ろう。ち…」 銃口が瑞樹へ向けられた。 紗夜刑事の銃だと理解する。 「なぜ、お母さんを殺したの…瑞樹?」 「な、何を言っているんだ千尋!」 あの千尋ではないことを感じた。 「瑞樹の秘密は知ってる。病院にいたことも」 ゆっくり顔を上げる千尋。 「何でお母さんを殺した❗️答えろ瑞樹❗️」 路地の入り口に、咲達が着いた。 瑞樹の後方には、近藤達が来た。 「なっ⁉️」「おっと❗️」 状況が全く理解できない。 しかし、猶予はないと感じた咲。 「菊水千尋、銃を下ろしなさい!」 「なぜ殺した?何故だ瑞樹❗️❗️」 凄まじい殺気に、声も出ない瑞樹。 (あれは…の千尋!) 母の香苗が恐れた、本来の千尋。 優しい別の人格が、続いて欲しいと願った。 咲、戸澤、昴。 刑事の勘が、近付いてはいけないと悟る。 「千尋、兄の僕に銃なんか向けるんじゃない」 「かんけい、無い❗️」 千尋の目が鋭さを増す。 「知っていたのか、2人は…」 このままではマズい。 ヤクザの勘も捨てたものではない。 「おっ、雪だぜ。寒いはずだ、全く」 近藤の言葉に、一瞬気を取られる。 その隙に、咲のヒールが飛んだ。 空手で鍛えた神速の前蹴り。 的確に、左手の銃へ命中した。 が… 「バンッ❗️」「ガシャン!」 弾き飛ばされる衝撃で、放たれた銃弾が、唯一の照明を砕いた。 「千尋❗️」 条件反射は、意図せずに体を支配する。 咄嗟に駆け寄った瑞樹。 (しまっ…た❗️) 「ヴシャ!」 闇の中で、聞いたことのない、嫌な音がした。 目が慣れるまでの数秒間。 瑞樹の体が、ゆっくりと千尋にもたれかかる。 突き出された右手が、露わになっていく。 その小さな掌が握った心臓は、瑞樹の体の外で、最期の命を…打った。 舞い落ちる雪の花びらが、付いては赤く、また付いては赤く、溶けていく。 「そんな…」 悲しいかな、ちょうど紗夜とラブが到着した。 衝撃的な場面を見てしまった2人。 その心を、猛烈な憎しみと哀しみが絡み合った咆哮が、突き抜けたのであった。
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