終章. 運命の終止符

3/3
前へ
/37ページ
次へ
阿修羅、覚醒。 即死の瑞樹の体から、右手を引き抜く。 「ズチャ…」 亡骸を捨て、1番近くにいた野々宮を見る。 慌てて逃げるが、足がもつれて転んだ。 その背中へ跳ぶ阿修羅。 「ガッ❗️」 高速で走り、跳んだラブのタックルが、横から阿修羅を抱いたまま転がる。 「早く彼を!」 ラブの声に、呆然としていた皆んなが動いた。 背中に、阿修羅の強烈な(ひじ)がめり込む。 「グッ!」 2つ目は離れてかわした。 肋骨が折れ、息が苦しい。 「ラブさん!」戸澤が助けに入る。 「来ちゃダメ❗️」 その声より早く、阿修羅の右手が戸澤を襲う。 (許して!) 「バンッ❗️」「グッ!」 しなりながら異様に伸びた右腕を、拾った自分の銃で紗夜が撃ち抜いた。 しかし、(ひる)むことなく襲いかかる阿修羅。 その体を近藤の回し蹴りが横に()ぐ。 「ヴァハッ❗️」 「なにッ⁉️」 阿修羅とは言え、見た目はか細い女性である。 その甘さが、威力を下げさせた。 近藤の脚を抱え、踏み留まる。 数本の肋骨が折れていた。 「催眠状態に、痛みはない!」 ラブの声に、昴が銃を構える。 「殺さないで❗️」 紗夜が叫んだ瞬間。 銃を持つ腕を押さえてひざま付く昴。 苦痛に顔が歪む。 「グッ!何だ?」 昴の手首が、見えない小さな手で、強く握られていた。 「紗夜さん、やめて❗️」 激痛が走る右手を握り締め、崩れる紗夜。 近藤と戸澤は、必死に阿修羅を抑え込もうと苦闘している。 押さえられた腕を、振り解こうとした阿修羅の右腕が、力に耐えきれずに折れた。 「なんて力だ!」 (早く催眠を解かないと、千尋の体が保たない。…瑞樹はどうやって?) 「クッ」 痛覚を遮断するラブ。 痛みは焦りを生み、他の感覚を鈍らせる。 6感を制御できる、ラブの特殊能力である。 ふと、瑞樹の手が、ポケットに入っていることに気付く。 あの状況で手を入れる理由は一つ。 駆け寄り、ポケットから手を引き抜く。 「これは!」 考えている余裕はない。 「戸澤さん!」 握られていたボイスレコーダーを取り、戸澤へ投げた。 受け取った戸澤が、再生スイッチを押した。 「…ちひろ。いい子ね。起きて千尋!」 香苗の声に、阿修羅の動きが止まる。 力が急激に低下していく。 「おかあさん…」 一言呟き、目を閉じ。 ガクン、と項垂(うなだ)れた。 直ぐに目を開けて、周りを見渡す千尋。 「私…何で…痛い!うぅ…痛いよ、痛い❗️」 咲が呼んでいた救急車のサイレンが、近付いて来る。 「動くんじゃない。もう大丈夫だ」 近藤が、優しく微笑む。 「瑞樹は?瑞樹はどこ?」 自分の体で隠し、瑞樹を見せない近藤。 起きあがったラブと紗夜が、上着を変わり果てた瑞樹に被せる。 「自分の掛けた暗示で、やられるとは…」 「悲しい結末ですね」 千尋の咆哮は、一生忘れられないだろう。 舞い落ちる雪を見上げて、2人は同じ痛みを感じていたのであった。 長い夜に、ようやく終止符が打たれた。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

150人が本棚に入れています
本棚に追加