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阿修羅、覚醒。
即死の瑞樹の体から、右手を引き抜く。
「ズチャ…」
亡骸を捨て、1番近くにいた野々宮を見る。
慌てて逃げるが、足がもつれて転んだ。
その背中へ跳ぶ阿修羅。
「ガッ❗️」
高速で走り、跳んだラブのタックルが、横から阿修羅を抱いたまま転がる。
「早く彼を!」
ラブの声に、呆然としていた皆んなが動いた。
背中に、阿修羅の強烈な肘がめり込む。
「グッ!」
2つ目は離れてかわした。
肋骨が折れ、息が苦しい。
「ラブさん!」戸澤が助けに入る。
「来ちゃダメ❗️」
その声より早く、阿修羅の右手が戸澤を襲う。
(許して!)
「バンッ❗️」「グッ!」
しなりながら異様に伸びた右腕を、拾った自分の銃で紗夜が撃ち抜いた。
しかし、怯むことなく襲いかかる阿修羅。
その体を近藤の回し蹴りが横に薙ぐ。
「ヴァハッ❗️」
「なにッ⁉️」
阿修羅とは言え、見た目はか細い女性である。
その甘さが、威力を下げさせた。
近藤の脚を抱え、踏み留まる。
数本の肋骨が折れていた。
「催眠状態に、痛みはない!」
ラブの声に、昴が銃を構える。
「殺さないで❗️」
紗夜が叫んだ瞬間。
銃を持つ腕を押さえてひざま付く昴。
苦痛に顔が歪む。
「グッ!何だ?」
昴の手首が、見えない小さな手で、強く握られていた。
「紗夜さん、やめて❗️」
激痛が走る右手を握り締め、崩れる紗夜。
近藤と戸澤は、必死に阿修羅を抑え込もうと苦闘している。
押さえられた腕を、振り解こうとした阿修羅の右腕が、力に耐えきれずに折れた。
「なんて力だ!」
(早く催眠を解かないと、千尋の体が保たない。…瑞樹はどうやって?)
「クッ」
痛覚を遮断するラブ。
痛みは焦りを生み、他の感覚を鈍らせる。
6感を制御できる、ラブの特殊能力である。
ふと、瑞樹の手が、ポケットに入っていることに気付く。
あの状況で手を入れる理由は一つ。
駆け寄り、ポケットから手を引き抜く。
「これは!」
考えている余裕はない。
「戸澤さん!」
握られていたボイスレコーダーを取り、戸澤へ投げた。
受け取った戸澤が、再生スイッチを押した。
「…ちひろ。いい子ね。起きて千尋!」
香苗の声に、阿修羅の動きが止まる。
力が急激に低下していく。
「おかあさん…」
一言呟き、目を閉じ。
ガクン、と項垂れた。
直ぐに目を開けて、周りを見渡す千尋。
「私…何で…痛い!うぅ…痛いよ、痛い❗️」
咲が呼んでいた救急車のサイレンが、近付いて来る。
「動くんじゃない。もう大丈夫だ」
近藤が、優しく微笑む。
「瑞樹は?瑞樹はどこ?」
自分の体で隠し、瑞樹を見せない近藤。
起きあがったラブと紗夜が、上着を変わり果てた瑞樹に被せる。
「自分の掛けた暗示で、やられるとは…」
「悲しい結末ですね」
千尋の咆哮は、一生忘れられないだろう。
舞い落ちる雪を見上げて、2人は同じ痛みを感じていたのであった。
長い夜に、ようやく終止符が打たれた。
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