1章. 継続する凶行

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〜新宿区歌舞伎町〜 飲み屋やスナックが並ぶ、新宿ゴールデン街。 早朝7:30。 路地裏にブルーシートが張られた。 現場に近い昴が直行し、対応している。 「ひでぇ有様だ。顔や歯形の判別は無理だな」 「豊川さん、見立てを」 「害者は中村隆一、年齢は22歳。死亡推定時刻は昨夜の19:00〜21:00。死因は…言うまでもねぇか。凶器はあのヘルメットで、恐らくは彼自身のもの。あっちにバイクが停めてある」 財布に入っていた免許証を昴に渡す。 豊川勝政(とよかわかつまさ)。 警視庁特別対策本部にある、鑑識部と科学捜査部の部長で、現場第一のベテラン刑事。 「財布が無事なら、怨恨の筋ですね。とりあえず例の連続犯ではないか」 「チンピラが返り討ちに合ったって感じだが…それにしても、ここまでやれるか?遺体の状況は、先の連続撲殺殺人と全く同じだぜ」 それは、昴も感じていた。 しかし、40〜50代とは違う。 「豊川さん、朝一で昨夜の報告会議があるので私はこれで。また後で連絡下さい」 「んっ?」 「どうかしましたか?」 「いや、なんでもねぇ。メットの鑑識結果と、聞き込みの結果を後で知らせる」 しゃがんで片手を軽くあげる豊川。 それを確認して離れる昴。 〜警視庁特別対策本部〜 9:00。 刑事課フロアに、ガラスで仕切られた会議室があり、沢山の機器やモニターが並ぶ。 「じゃあ昴、昨夜の爆破事件について報告を」 咲がいつも通り仕切る。 「狙われたのは、新宿栄ビル12階にある、橋本法律事務所。事務所にいた弁護士の橋本健作 52歳は、搬送先の病院で死亡が確認されました。使用されたのは、小型のプラスチック爆弾と可燃性のガス。あの部屋を一瞬で焼き払い、破壊するには十分です」 「手口は前の3件と全く同じってことか。しかし、誰がどうやって爆弾を中に?」 「疑問はそれだけではないわよ」 モニターに、ヴェロニカが映る。 TERRA(テラ)コーポレーションの開発部門をまとめる、世界最高頭脳の持ち主。 「また、出てきやがった」 「淳ちゃんおはよ。今回は、ラブから協力する様に言われたからね」 「何なの疑問って?」 「咲さん、犯人が殺害してるのは、ターゲットただ1人。つまり、1人でいる時を狙って確実に仕留めてるのよ」 「確かに、他に被害者はいません」 「昴ちゃんの言う通り。つまり、完全にターゲットを監視しているってわけ。それから、なぜ戸澤さんがそこにいるのかも、私には大きな疑問だけど、まぁ丁度いいか。被害者が狙われる共通点は知ってるわよね?元公安のあなたなら」 みんなが戸澤を見る。 「チッ!仕方ねぇ…。今回の橋本健作も、今までの弁護士と判事も、皆んな裏取引の噂があるクセ者だ。中には、検事や警察の中にも繋がりがある奴がいる」 「どうせ、そんなことだと思っちゃいたが、知ってて何故公安は動かないんだ?」 「それが、この日本の組織ってことだ。公安と言えど、その組織の一部だからな」 「じゃあ犯人は、不正な裁判を行なっている汚い奴らを始末してる正義のヒーローってこと?冗談じゃないわ❗️だからって殺人を許せるかって〜の!」 テンションが上がる咲。 「まぁまぁ咲、落ち着きなさい。その情報を知る方法は何だ?」 富士本が原点に話を戻す。 「裁判の関係者ってことか?」 「淳ちゃん、警察って可能性もあるわよ」 「ちょっと、ヴェロニカ!喧嘩売ってんの❗️」 「アハハ、ごめん咲さん、冗談よ。怪しいのは傍聴人ね。いつ何の裁判があるかは、ネットでも調べられるからね」 「なるほど。被害者が関わった裁判の傍聴人リストを調べてみます」 「昴、それは無理よ。傍聴人のリストは非公開なの。警察でも見れないわ」 これでも咲は、元弁護士である。 …ほんの少〜しではあったが💧 「成る程ね〜。だから戸澤さんがいるのね」 ヴェロニカの呟きに、再び皆が戸澤を見る。 「おいおい💦もう俺は公安クビだぜ?」 そんなまともな言い訳が、簡単に通用するメンバーではないのが、この刑事課である。 キャスター付きの椅子で、脚を組んだミニスカハイヒールが、ガァー!っと来た。 「任せたわ、戸澤」 (顔近っ💦って言うか、怖っ💦) 「や、やりゃあいいんだろ、全く💧」 「よし!昴は被害者の最近の裁判データを集めて、怪しいものを調べて」 「はい。あと、今朝見つかった遺体ですが…」 「連続殺人とは違うんでしょ?宿署に任せときなさい。どうせチンピラの喧嘩よ」 「それが、豊川さんが言うには、被害者の年齢こそ違えど、手口は全く同じだと…」 「豊川さんが?」 咲が富士本を見る。 「うむ。咲、昴、関連性は保留して、鑑識と聞き込みの情報を待とう」 豊川の勘は、それ程に信頼されている。 「淳、紗夜は?」 「また昨夜も、一晩中張りこんでる様で。携帯も電池切れで繋がらないし、全く」 「また帰らなかったの?熱の入れ過ぎね。(じん)に見かけたら忠告する様に言っとくわ」 と言って、富士本を見る咲。 わざとらしく耳を塞いでいる富士本。 しかしその目に、寂し気な気配を感じる。 今年もあと3日。 年内の解決を目指し、各人がするべきことに全集中していた。
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