1章. 継続する凶行

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〜東京千代田区〜 東京駅と皇居を見下ろす高層ビル。 本間貴金属工業。 古くは江戸時代、徳川幕府の財政を支えた佐渡島の佐渡金山に始まり、現在も皇室御用達の貴金属加工メーカーの大企業である。 佐渡金山は、1989年に資源枯渇のため休山となり、400年の長い歴史の幕を閉じた。 社名は時代と共に変わっては来たが、15代目社長が、若干23歳にして、1年前に就任したばかりであった。 「本間社長、先日の下請け企業の合併策は、お見事でございました。私の様な年寄りには、到底あんな度胸はございません」 金子一成(かねこかずなり)。 本間家の血筋は、現社長が15才の時に彼1人となり、東大経済学部を卒業するまでの間、副社長であった金子が社長代行を勤めていた。 「とんでもない。父が残した会社を、金子さんが、しっかり支えて来てくれてたおかげです。本来なら、この椅子にはあなたが相応しい」 「勿体無いお言葉でございます。この4月に社長が実行された会社再編により、見違える様に業績も安定し、傘下の子会社含め、感謝している次第でございます」 事実、彼の父譲りの経営能力と、新しい経済学の融合は、消沈しかけていた会社を、見事に立て直したのであった。 新しいシステムの開発や、導入による効率化。 人件費削減できるところは、末端の子会社にまで徹底した。 彼が違ったのは、削減した分を、人でしかできない分野に投入し、下請け含め、全てが潤う会社体制を目指し、実現したことであった。 「金子さん、今まで通り我が社の運営はあなたと、あなたを慕う人達に任せます。わがままな社長で申し訳ない。よろしくお願いします。」 「私が元気なうちは、精一杯お仕えさせて頂きます。では、会議がありますので、今日は失礼いたします」 裏表のない、温厚で冷静な金子。 彼のみならず、社員には厚く慕われていた。 心から信頼できる人物である。 金子と入れ替わりに、彼が最近採用した秘書が入って来た。 「本間社長、預かり物をお持ち致しました」 「堅苦しいのはなしにしましょう。土屋香織(つちやかおり)さん」 社長席から、ソファーへと移動し、彼女も向かいに座らせた。 「ご主人も仕事に無事復帰された様で、本当に良かった」 「元の部署へ、とはいきませんでしたが、かえって私は安心しております」 「苗字は戸澤にしないのですか?」 「ええ、戸澤に戻る時は、秘書の仕事を辞める時と決めておりますので」 「なるほどね。土屋さんも金子さんも、私と同じ佐渡島出身で、何だかホッとします」 「それが、私を雇って頂いた理由の一つと聞いて、驚きました。まさかこうして、秘書の仕事に戻れるなんて…」 「土屋さん、あなたには天性の才能がある」 そこで本間が、土屋の持ってきた大き目の封筒に目をやる。 それを察する土屋。 「先ほど、本間社長にと、木村周平(きむらしゅうへい)と言う探偵がこれを」 「ありがとう。彼は人探しのプロらしくてね。値段は少々高いですけどね、ハハ。」 それ以上は、何も聞かない土屋。 「では社長、また時々は来て下さいね。私は金子副社長を手伝って参ります。新しいOA機器が苦手な様なので」 「でしょうね。よろしくお願いします。」 本心で、笑顔を交わす2人。 土屋が出るのを確認して、中身を取り出す。 (確かに、いつも完璧な仕事だな) ソファーを立ち、ガラス張りの外壁から、皇居や行政機関の姿を見下ろす。 (父さんは、ここからどんな思いで…) 溢れそうな涙を堪え、鞄に封筒を入れ、コートを持って、部屋を後にする本間であった。
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