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2章. 誤算
〜東京世田谷区〜
マリアは、この屋敷の家政婦といったところで、あらゆる家事や所要をこなしていた。
「お昼もご馳走様でした。料理がお上手なんですね。とても美味しかったです」
「恐れ入ります」
42歳の彼女は、瑞樹が中学の頃から、専属で世話をしている。
庭に突き出た、ガラス張りのテラス。
冬の日差しで、丁度良い暖かさである。
「マリアさんは、瑞樹が付けた名前らしいのよ。本名は知らないけど、似合ってるよね」
「そうなんですか。私はてっきり外国人とのハーフかと思ってました」
「あれ?瑞樹がもう帰ってきたわ」
スポーティな白のBMWが、自動ゲートを抜けて、屋敷の前に停まった。
マリアが迎え、少しするとテラスへ現れた。
「今日は早いじゃない?」
「千尋、確かお母さんのお見舞いに行きたいと言っていたよね?午後は空いたから、今からどうかと思って」
「ホントに!嬉しい。ミカも一緒にどう?」
「名前を思い出したのか?」
「いえ、千尋さんが…」
「なるほど、似合ってるね。でも…休んでなくても大丈夫ですか?」
心配気に頭の包帯を見る。
「大丈夫だと思います。1人だと色々考えてしまうので、良かったらご一緒させてください」
「よし、決まりね。ミカさんがいてくれた方が、私も気が楽だし」
「外に出して大丈夫かな…病院ならいいか」
「はい、大丈夫です」
「ん?どしたの、ミカさん?」
瑞樹も少し驚いた表情を見せた。
「では、行きましょうか。お見舞いの品は、車にありますから」
正直なところ、2人と話していると、自分の不安も和らぐミカであった。
〜六本木第一ビル〜
戸澤と淳一は、ほぼ同時に現場に着いた。
まだ騒然としているが、ブルーシートはない。
「ご苦労様です。六本木署の多田です」
警察手帳を見せた2人に、若い警官が話しかけて来た。
「状況は?」
「幸い、通行人はおらず、このビルの窓は強化ガラスの様で、5階の事務所も、窓がひび割れた程度で怪我人はいません」
「中の人達は、どうなんだ?」
「1階と2階の飲食店、3階4階の金融会社は、一時避難しましたが、もう中にいます。5階の保険会社は定休日らしく、誰もいない様です」
「7階の瀧川組は?」
「避難した様で、誰もいません」
「クソッ!逃げられたか」
「戸澤さん、後の6階8階は何もテナントは入ってませんね」
入り口のプレートを見た淳一。
鑑識班が写真を撮り、周囲の破片や燃えかすを採取している。
本部へ連絡を入れる淳一。
「淳一です。瀧川組には逃げられました。被害者はなし。鑑識が回収してますが、ドローンの破片らしきものは見当たらない様です」
電話を切る。
「戸澤さん、戻りましょうか」
「そうだな、監視カメラも近くにはないしな」
辺りを見回した戸澤。
それぞれ車に乗り、現場を後にした。
〜警視庁特定対策本部〜
戸澤の入手した、判事の河本鉄郎、弁護士の橋本健作、橋本真司らの裁判記録を昴が整理し、モニターに映す。
「いかにもって感じね、このコンビは」
「しかし…こんなデータをどうやって彼は…」
「ま、まあ💦部長、そこは考えないようにしましょ。戸澤を信じて、ね💦」
富士本としても、戸澤を追求するつもりはないが、証拠には使えないと考えていた。
「ごめんさん、バタバタしてて」
ラブが戻って来た。
「警察じゃないんだから、無理しなくていいのよ。って言っても無理か。正直、助かるわ」
「ありがと。昴さん、リストから有罪判決は除いていいわ」
「どうしてですか?冤罪が犯人の動機かもしれないのでは?」
「有罪になってる案件に、死刑になった者はいないわ。生きてたら、復讐するより、控訴するでしょ」
「確かに…そうですね」
「それから、殺人容疑の無罪判決、或いはその判決後に起訴側に自殺や死亡者がいる案件に、更に絞って下さい」
「やってみます」
さすがだと感心する咲と富士本。
「それで?」
咲が腰掛けながら、ラブに問う。
「小型ドローンの場合、操縦可能距離は、平地なら2km近くあるけど、市街地など障害物が多い場所では、せいぜい300〜500m」
「そうなの、意外と近いわね」
「そこで、爆破事件があった時刻に、その場所から半径500m内で、共通した不審車両がないか、調べたんだけど…残念ながら空振り」
「車からではないか、毎回車を変えてるかね」
「そうねきっと。ただ…連続撲殺事件の方は重大な発見が…」
そこへ淳一と戸澤が帰って来た。
「丁度良かった。ラブさんが、重大発見したらしいから、来て」
「ま…マジでトーイ・ラブ❣️」
「いいから、来なさい!」
初めて生ラブを見る戸澤。
軽く頭を下げる。
「戸澤さんね。よろしく💕」
「柄にもなく何照れてんのよ、全く」
ラブの笑顔が、淳一を見て消える。
その目に、咲と富士本は、その重大さを感じたのであった。
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