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翌日、大学に向かっていると、
「瑠衣!」
と後ろからが声がし、振り向くと、満面の笑みで早乙女君が走りながら、こちらに向かってくる。そして、私に追いつくと、
「おはよう!」
と爽やかな挨拶をした。次の瞬間、早乙女君は私と手を繋いだ。私たちは手を繋いだまま大学の講義室に入ると、同級生たちが驚いた表情をしているのがすぐにわかった。周りの目など気にせずに、早乙女君は
「あっ、あの席空いているよ。あそこに座ろ」
と私の耳元でささやいた。それから数日間、唯斗は私と付き合っていることを周りに気づかせるように、わざと大きな声で名前を呼んだり、人目を気にせず、ハグをすることもあった。そんな早乙女君の行動が私には理解できず、
「早乙女君、あのさ、どうしてそんなにみんなの前で、ハグをしたり、わざと大きな声で呼んだりするの?恥ずかしくて、たまらないよ・・・」
私がそう言うと、早乙女君は微笑みながら
「恥ずかしがっている瑠衣も、かわいいね。俺がわざとそうする理由は、周りの人間に、瑠衣は俺のものって知らしめたいんだ」
「私のことを大切に思ってくれるのは、ありがたいけど・・・そういうのは、二人きりの時がいいな」
「わかった。なんか、嫌な思いをさせたみたいだね。ごめん」
その会話を交わした日から、早乙女君は以前のように、堂々とハグをしたりすることはなくなった。ある日、大学の食堂で早乙女君と食事をしていると、いきなり
「瑠衣、今週末、デートしない?」
と言ってきた。私は早乙女君に出会うまで、男性と付き合ったこともないし、もちろんデートなんかに誘われたことがなかった。少しばかり私が戸惑っていると、
「ごめん、嫌だった?」
「違うの!全然嫌じゃないよ。生まれて初めてデートに誘われたから・・・びっくりしただけだよ」
私がそういうと、それまで不安そうだった早乙女君は、いつもの優しい顔をしていた。
「本当に、瑠衣はかわいいね。じゃあ、俺とデートしてくれる?」
「もちろん!」
私たちは付き合ってから初めてのデートをすることになった。デートの日まで時間があった。その日の夜、デートに来ていく服を買ったり、メイクを練習したり、とにかく、少しでもかわいくなれるよう、自分磨きをした。デート前日の夜、一人部屋の鏡を見ながら、明日着ていく服を選んでいると、
「コンコン」
部屋のノック音と共に、お兄ちゃんが私の部屋に入ってきた。
「もしかして、彼氏とデートすんの?」
「そうだよ。だから、こうして服を選んでいるんじゃない。ねぇ、ロングスカートと、ミニスカート、どっちが良いと思う?」
「別にどっちでも良いと思うけど。瑠衣が着ていきたい方にすれば?」
「それも、そっか。ありがとうお兄ちゃん」
私には、一つ上のお兄ちゃんがいる。小さい時から、私が何か困っていたり悩んでいたりすると、お兄ちゃんはいつも私を守って、支えてくれた。
「お兄ちゃん、そういえば、どうかしたの?何か私に用事でもあるの?」
「あぁ、もうすぐでご飯だから、そろそろリビングに来いってさ」
「オッケー」
そして、夕飯を食べ、お風呂に入り、ベッドに腰かけ、流にラインをした。
「今日は、一日曇ってたね・・・」
すると、
「そうだね。でも、瑠衣が曇り空も好きって言っていたから、僕も曇り空が好きになってきた!」
何気ない会話をして、心が満たされた。
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