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「お待ちしておりました、久住さま!」
予約時間に店に入ると、朔太郎くんは口を大きく開けて、大きな声で彼は俺を迎えてくれた。その白い前歯がよく見える。小さな白い歯だ。多分口が小さいのだろう。ぼんやりとその顎を見て、やっぱり小さな顎のようだと思う。初対面の人の顔はとにかくパーツばかり気になって、全体がわからない。
でも、俺の肩より少し低い身長、小さな頭、小さな肩だから、多分全体的に小さいのだろう。
ふと、彼の瞳が目に入る。二重で、丸っこい瞳をしている。その瞳がじっと俺を見上げていた。
「……大歓迎だね?」
「あ、すいません。オープンしたばっかりだから、俺、すごい気合い入ってて……うるさかったでしょうか?」
「いや、歓迎されるのは嬉しいよ。えーっと、カットの予約してた久住です」
「はい、存じております。こちらの先にお座りくださいー」
示されたソファーに腰を掛けると、やたらとリアルな子熊のぬいぐるみと目が合った。やっぱりビビる。なんでこんなリアルである必要があると思っていると、「抱っこしていいですよー」と言われた。
「抱っこ……これを?」
「可愛いですよね、この子。前のお店でお客さんからもらったんですよ。ほらほら」
「え、うわ、……意外と重い」
「リアルさを追求したらしいです」
「何故? 子熊のリアル、いるかな……」
「あとこのブランド、ペンギンもいるらしいですよ。……あ、それで久住さま、カウンセリングシートに記載いただいてもよろしいですか?」
膝の上に子熊をのせたまま、差し出されたバインダーを受けとる。
「あー、これか……」
「お手数ですけど、お願いします」
「はーい……」
よくあるやつだ。名前と住所と電話番号と希望の髪型を書くやつ。ちょっとげんなりしつつ、記入していく。
と、トン、とソファーに朔太郎くんが座った。彼は俺の記入していたものを覗き込んだ後、「久住さまは基本お任せしたい人ですか?」と首をかしげる。白い肌をしている。きれいな肌で、若い首。――やっぱり覚えがあるような気がする。でもどこで出会ったのかは思い出せなかった。
だから、『初対面』ということにした。
「基本というか……全部お任せできると助かる。自分で似合う髪型とか全然わからないから、カットでもパーマでもカラーでも好きにしてほしい。痛んだことないし……というのと、髪の手入れもわからないから、とにかく手間がかからなければいい」
「アハ、わかりました。そこまで任せてもらえるなら、あとはもう記入いらないです。任せてください。サクサク切っていきましょ?」
「いいのか?」
彼が口を大きく開ける。白い歯が見える。
「はい、俺にぜーんぶ、お任せください!」
口が笑っているように見えるから、笑っていてくれるといいなと思いながら、彼に促されるままに鏡の前の椅子に座る。
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