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当日は、智久とタクシーでサロンに向かった。龍馬は大学へ行ったままのラフな服のままだったが、智久は着物だった。
わかったことを説明はするが、たいした内容ではない。俊也が自信を持っているから間違いではないと信じてはいる。しかし俊也から、確信を持った理由を教えてもらっていない分、不安が残っていた。
サロンに着くと、オーナーから、いつも以上に丁寧に迎えられた。サロンの一画にホワイトボードが出してある。前に椅子が三つ並んでおり、すでに一人座っている。
「二階堂警部補も同席されます」
刑事が立ち上がりこちらを向いた。「佐藤先生、ご無沙汰しております」と、深々とお辞儀をした。三十代後半に見える。智久に対する態度は柔らかいが、背が高く、鋭い目をしている。龍馬は余計、不安になってきた。
事件についての説明をはじめると、そんな不安は吹き飛んだ。オーナーと智久が前のめりになっていちいち好反応をみせてくれたため、龍馬は段々と饒舌になっていった。
ホワイトボードに文字を書きこむスピードも上がっていく。ペン先の出す摩擦音も、龍馬を高揚させた。
二階堂も二人ほどではないが時折相槌を打ってくれていた。
「父の言葉からヒントを得ました」
俊也に相談したことがバレないよう、智久の言葉から犯人にたどり着いたことにした。
「こうして私は、銀将を抜き取った人物を『F』と、特定しました」
オーナーが立ち上がって拍手をした。龍馬は、あまりの勢いに圧倒された。二階堂も拍手をしながら微笑みを浮かべていた。
「明日『F』さんに声をかけてみます」
オーナーは嬉しそうだ。
智久とオーナーが雑談をしているすきに、二階堂から話しかけられた。
「君、全部わかってるんやな」
龍馬はなんのことだかわからず首を傾げた。
「大丈夫。二人には言わへんよ。それより、今度頼みたいことがあるから、連絡先を教えてくれへんか」
龍馬は、おとり捜査のおとりを頼まれるのでは勘ぐったが、断ることができずに二階堂と電話番号を交換した。
帰りのタクシーの中で智久から「成功報酬と誕生日プレゼントは兼用でええな」と言われた。解決したのは俊也だったこともあり、龍馬はすんなり受け入れた。
後日、智久から無事に銀将が戻ってきたとの報告を受けた。
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