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目を開ける。ゆっくりと立ち上がり、支度を整えると、家を出る。
洞窟に続く山道をゆっくりと登る。
入り口でヘッドライトを点け、地図を眺める。
今となっては、これなしに洞窟に入ることはできない。
地図に従いながら足を進める。
すぐにヘッドライトに照らされた先以外は闇の世界になる。
毎日足を運んでも、次に何が起こるかわからない。
まばたきする間に落盤にまきこまれてもおかしくはない。
何が起こっても不思議ではない世界。
どれだけ掘り進めても、決して自分のものにはなりえない深遠な世界。
出口――そんなものはない。
入り口から暗闇の端に向かい、「もう少し先へ」と掘り進めて、引き返す。その繰り返し。
成果――それもない。強いて言うなら、生きて帰ること。それだけだ。
――カンッ!
――カンッ!
ツルハシを振るう度に響く音。
全身で受け止める衝撃。
世界の端で暗闇を穿つ感覚。
半世紀以上続けても飽きることはない。
結局、虜なんだ。この世界の。
――ガチン!
これまで聞いたことのない音がした。
遂に見つけたのかもしれない。
音のした場所を近くで見ようとした所で、背後から視線を感じた。
身体を起こし、ゆっくりと振り返る。
誰もいなかった。
それでも「ありがとう」と思った。
向き直る。
何が起こっても不思議ではない世界。ここはそういう場所だ。
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