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――カンッ!
――カンッ!
ツルハシを岩盤に振り下ろす度、坑内に響く音は、身体の中心に降下していく途中で、腕からの衝撃と心臓のあたりで交わり破裂する。
ヘッドライトで足元を照らす。削りだした岩をシャベルで掬い、モッコに載せる。
「今日はこんなもんか」
モッコを引きずりながら、歩を進める。
地面に擦れたモッコが「ズッ」「ズッ」と音を立てる。
「まあまあだな」
長年続けるうちに、肩に食い込む縄の痛さで、だいたいの重量がわかるようになった。
洞窟を出る。風が冷たかった。
廃石場で石を捨ててから、立小便する。
空を見上げる。輝くオリオン座。
自宅へと向かう坂を下る。
モッコはないのに身体がさっきよりも重い気がするのは、緊張が解けたからか。
遠くに見える自宅の明かりはついていた。
静かに開ける。妻は暖炉の前で揺り椅子にもたれかかりながら眠っていた。
いつもこうだ。「明日も仕事があるのだから待たなくていい」と伝えているのに。
穏やかだがどこか寂しげな寝顔を眺めていると、妻が目を開ける。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「すいません。寝てしまっていたようで」
「こちらはいいから。早くベッドで休みなさい」
「寒かったでしょう。食事はどうします? シチューがありますけど、あたためますか?」
「大丈夫だから。早く休みなさい」
「でも……」
「いいから!」
思ったより大きな声を出してしまった。怯える妻の表情。
「大声を出してすまない。自分のことは自分でする。明日も早いのだから、早くおやすみ」
「すいません。お先に失礼します」
寝室の扉が閉まるのを確認してから、できるだけ音を立てないようにして、シチューに火を通す。
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