暗闇を掘る

2/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「いいアイデアだ」  そう思うと、ついつい自宅に帰る足取りも急いたものになる。 「すぐに洞窟に行ってくる」 「おかえりなさい」 「夕飯は?」という妻の呼びかけに生返事をしながら支度をすると、自宅を飛び出す。 「いってらっしゃい」という妻の声に手を振りながら、洞窟に向かう坂を上る。  試してみたものの、思ったほどうまくいかなかった。 「何がいけなかったのか」と考察していると、背後から小石の転がる音が聞こえた。  動物か?――振り返り、シャベルを構える。  妻だった。 「どうしてここに?」 「何も食べずに出て行かれたので、おなかが空くだろうと思って」 「バカ!」大声で叫ぶ。残響。 「ここは危ないから近づいてはならないと伝えていただろう」 「そうですが」  足元を見る。「まったくそんな靴で来て。怪我したら……」  (すね)から血を流している。 「転んだのか?」  無言でうつむく。 「他に怪我した場所は?」  答えようとしないので、全身に触れながら確かめる。 「大丈夫か?」  うなずく。 「じゃあ帰ろう」という言葉に妻が顔を上げる。 「食事を届けに来ただけですので。一人で帰れます」 「そんなわけにはいかない」  必要最低限の荷物をまとめて妻を背負う。 「そんな……歩けます。大したことありませんから」 「いいから。大丈夫」  身体を預ける。石を載せたモッコより軽かった。  足元に気をつけながら洞窟の緩やかな坂を上っていく。 「迷惑かけてごめんなさい」  妻が背中でつぶやく。 「いいよ」と答えたかったが、息が上がっていた。代わりに、一度立ち止まり、しっかりと背負い直した。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!