暗闇を掘る

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「……」「待って」  洞窟に向かおうと玄関のドアを開けた所で、妻に呼び止められる。 「いい加減にして」  聞いたことのないような強い口調に思わず振り返る。 「いつまで続けるつもり?」 「何が?」と問い返したが、言いたいことの察しはついた。 「くだらない穴掘りはもう止めて」 「くだらない……か」 「そう。時間ばかりかかるのにお金にならない。家のことはこちらに任せてほったらかし」 「そうだな」 「この十年、仕事から帰ると毎晩洞窟に。土日も朝早くから向かって、帰ってくるのはいつも夕方」  妻はそこで言葉を止める。何を言おうとしているのかわかった。 「もう止めてほしいのか?」こちらから尋ねる。  うつむいたまま――つまりはそういうことだ。 「そうか……」沈黙。 「最初は理解しようと思っていました」  妻が口を開く。 「仕事でどんなに疲れていても、欠かさず足を運ぶ姿に、情熱に、尊敬してたくらいです」 「そこから先は、不安、混乱、諦め……そして、限界」  妻が顔を上げる。涙はない。枯れ果ててしまったのだろう。 「あなたは変わりませんね。出会った頃と変わらないくらいに若々しい」  そんなことはなかった。 「どうしてかわかりますか?」  ガラスのような瞳だった。 「夢ばかり見てるから。夢しか見ていないから」
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