暗闇を掘る

1/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 ――カンッ!  ――カンッ!  ツルハシを岩盤に振り下ろす度、坑内に響く音は、身体の中心に降下していく途中で、腕からの衝撃と心臓のあたりで交わり破裂する。  ヘッドライトで足元を照らす。削りだした岩をシャベルで掬い、モッコに載せる。 「今日はこんなもんか」  モッコを引きずりながら、歩を進める。  地面に擦れたモッコが「ズッ」「ズッ」と音を立てる。 「まあまあだな」  長年続けるうちに、肩に食い込む縄の痛さで、だいたいの重量がわかるようになった。  洞窟を出る。風が冷たかった。  廃石場で石を捨ててから、立小便する。  空を見上げる。輝くオリオン座。  自宅へと向かう坂を下る。  モッコはないのに身体がさっきよりも重い気がするのは、緊張が解けたからか。  遠くに見える自宅の明かりはついていた。  静かに開ける。妻は暖炉の前で揺り椅子にもたれかかりながら眠っていた。  いつもこうだ。「明日も仕事があるのだから待たなくていい」と伝えているのに。  穏やかだがどこか寂しげな寝顔を眺めていると、妻が目を開ける。 「おかえりなさい」 「ただいま」 「すいません。寝てしまっていたようで」 「こちらはいいから。早くベッドで休みなさい」 「寒かったでしょう。食事はどうします? シチューがありますけど、あたためますか?」 「大丈夫だから。早く休みなさい」 「でも……」 「いいから!」  思ったより大きな声を出してしまった。怯える妻の表情。 「大声を出してすまない。自分のことは自分でする。明日も早いのだから、早くおやすみ」 「すいません。お先に失礼します」  寝室の扉が閉まるのを確認してから、できるだけ音を立てないようにして、シチューに火を通す。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!