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女神が彼女の過去を話し出すと、彼女の話をさえぎるように大声で叫びながら、彼女は大きな動きで女神の手を振りほどく。
「どうしたのです? 貴女を不幸せにしてきた男たちを全て羅列してその記憶を消去すれば、貴方は幸せになれるのですよ。貴女の願いはそういうことでしょう?」
女神は彼女が狼狽している姿を不思議そうに眺めながらつぶやいた。
「いえ、違いますね、貴女は誤解していますよ。貴女の心の中いる彼らは全て貴女が好きだったのですよ。男性というのは好きな女性に対してイジメたくなる生き物なのです。だから、貴女のその記憶は黒歴史なんかではありません。その記憶は、逆に男性たちにとっての敗者の歴史なのですわ」
女神のつぶやきを聞いた彼女は、目を見開いて口を手で押さえながら驚きを隠せない。女神は助手の横にいる教授をちらりと見て、一瞬躊躇してから話を続ける。
「例えば、あなたの横にいる教授は、幼稚園児の時にあなたをからかっていたケンジ君だったりね。ケンジ君は、その結果貴女に嫌われたとずっと悲しんでいたのですよ」
女神の告白を聞いて、助手である彼女は若い教授の顔をあらためて覗き込む。教授は努めて冷静な顔をしながら、彼女の視線を意識的にそらす。彼の視線はフラフラと揺れ、耳たぶが真っ赤になっている。彼女はそのことに気が付いてから、彼の肩にそっと手をかけて彼の耳元に唇を近づけて囁く。
「教授。もしも良かったらですけど。ちょっと遅くなっちゃいましたけど。これから幼稚園の続きを始めませんか……」
うぶな二人のようすをじっと眺めていた女神は、後ろを振り向きながら二人に聞こえないように、独り言ちした。
まったく、人間という生物はなんとも扱いにくいものですわね。わたくしを一度復活させて、助手の彼女と付き合いたいという望みを言った後でもう一度わたくしの像をバラバラにするなんて。
そこまでしても、一度敗れた恋を成就させたいのかしら。ええと、そんな行為をこの世界ではなんていうのでしたかしら……。
ああ、そうね、
『敗者復活』
だったかしら。
(了)
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