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放課後エンカウント!
パンの焼ける香ばしい匂いと淹れたてのコーヒーの匂いが、いまだに微睡んでいる俺の鼻先をくすぐる。
匂いに刺激されたすっからかんの胃が、食欲を覗かせて『グゥ~』と間抜けた音を鳴らした。同時に、枕元で何かが鳴る音が聞こえている。
ひとつはスマートフォンのアラーム。ふたつめは普通の目覚まし時計。緩慢な動作でそのどちらともを引っ掴む。
「ん──、うるさぁ~い……」
スマホは眩しさに顔を顰めながら画面をタップし、目覚まし時計は真上から少々乱暴にボタンを叩く。
とにかく朝起きるのが苦痛で仕方ない。
どうして高校は、朝の8時半からホームルームが始まるんだろう……10時からホームルームでいいじゃないか。世の中フレックスタイムって言葉があるのに、学生だけ時間がきっちりきっかり決まってるのは不公平だ。
新しく買い直した、究極に暖かいってCMで話題の毛布を頭からすっぽりと被る。お腹は空いているけれど、睡眠欲のほうがまだ勝っている。
毛布の暖かさに眠気を誘われ、うっとりと目を閉じると、遠くの方がなにやら騒がしい。ドアの開く音に、床を踏み鳴らす足音が近づいてくる。
「くろとぉ~!? いつまで寝てんのー!! アヤちゃんもう出るってぇー!! アンタも学校でしょー!?」
バサッ──頭まですっぽり覆っていた毛布がいとも簡単に剥ぎ取られ、暖かさが一瞬で遠のき、代わりにスウェットに身を包んだ肌を冷気が撫でると全身が寒気で粟立つ。
一緒に暮らしている家族の中で、強引な振る舞いをする人物はたったひとりだけ。それは──。
「なぁにすんのぉ~……さーむーいー! 天華ちゃんのバカァ、寒いってば!」
「姉に向かってバカとはなによ!? せっかく起こしにきてあげたのに、失礼しちゃうわね! アヤちゃんが用意したアンタの分のクロックムッシュ、私が食べちゃってもいーのよー?」
「クロッ……、ダメに決まってんでしょー。俺がアヤの作るカフェ飯大好きなの知っててそういうこと言うんだからもー……」
さすがは姉──俺の扱い方を心得ていると言うべきか。
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