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ぎんなんの木
小学校へ向かう途中に、大きなイチョウの木がありました。
秋になるとぎんなんをたくさん落とし、子供たちはそれを一生懸命拾いました。
その木は子供たちの間で「ぎんなんの木」と呼ばれ、学校がお休みの日には、ぎんなんの木の近くにある公園で夕方まで遊んだり、ぎんなんの木の前でケンカしたり仲直りしたり、秋には、誰が一番ぎんなんを拾えるか競争したりしました。
身体が大きく足も速い五年生のマサルは、ぎんなんを拾うのがとても上手でいつも一番。
「マサルは大きいからたくさん拾えるんだ」
「マサルはすばしこいからたくさん拾えるんだ」
「いいなあ」
「いいなあ」
などと、皆に羨ましがられていました。
でも、マサルがぎんなんをたくさん拾うことができたのは、身体が大きいことと足が速いことの他にも理由があったのです。
マサルは、登校の列の一番うしろで、班の子たちが列からはみ出さないように見守りながら歩く係でした。
いつもうしろから、誰かが列からはみだしていないか、危なくないかと足元を気にするうちに、ぎんなんがたくさん落ちやすい場所がわかるようになっていたのです。
マサルは、学校へ向かう列がぎんなんの木に差し掛かったときの、やさしく揺れるイチョウの葉と、葉を揺らしたやさしい風に包まれた友達の列を見るのがとても好きでした。
マサルにとって、子供たちにとって、ぎんなんの木はなくてはならないものでした。
あって当たり前のものだったのです。
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