ねがいびと

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 そこでお父さんは考えた。  お母さんがすぐそばにいると、からだが触れていなくても、お母さんのあたたかい体温を感じることができる。熱が空気を伝わるからだ。そして音も空気を伝わって人の耳に届く。それなら、耳の代わりに皮膚を使って、空気の振動である音を感じ取ることができないだろうか。 それ以来お父さんは、全身の皮膚の神経をとぎすますようになった。  静かに目を閉じて両腕を翼のように広げると、手のひらをいっぱいに開き、指の中を走る血管や神経の一本一本までに意識をめぐらせた。そうやって、自分をとりまく空気の流れや、その振動を感じ取ろうとしたんだ。
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