2.山本聡子

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 ところで、私がこの東郷家に仕えるようになったのには理由がある。私の母も昔東郷家に仕えており妊娠出産を機に仕事を辞めている。未婚のまま私を産んだ母は最後まで父親の名を明かさなかったそうだが、周りは薄々勘付いていたらしい。東郷家の長男に手籠めにされたのではないか、と。いや、実際二人は愛し合っていたのかもしれないしそうではないのかもしれない。若くして亡くなった母は手紙や日記の類も一切残しておらず真相は闇の中だ。別に東郷正雄に恨みつらみをぶつけたかったわけではない。好奇心、というやつだ。それに夫と死別した私は仕事を探していたというのもある。夫の姓をそのまま使っているので以前屋敷に仕えていた女性の血縁であるということもバレなかった。  もし本当に私が東郷正雄の娘なのだとしたら曉子とは異母姉妹だ。由緒正しい名家のお嬢様として育てられた曉子に嫉妬心がないかと思えば嘘になる。だが初めて曉子に会った瞬間、そんな感情は消し飛んだ。むしろ豊かとはいえないが祖父母の愛情を受けて育った私の方が幸せだったのでは、そう思った。それに死別という悲しい結末だったとはいえ一度は愛する人と結婚もしている。私はいつしか曉子を守ってやりたいと思うようになっていった。
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